英国で海鳥が「前例のない大量死」、鳥インフルの強力な変異株で

英国北部のスコットランドに位置するシェトランド諸島の狭い地峡で、みすぼらしい姿の鳥が一羽、そばを通り過ぎる人々を気にもせず砂にうずくまっている。灰と白のまだら模様の羽が風に煽られても、その若いカモメは楽な姿勢を取ろうともしない。つい最近始まったばかりの新たなトラブルの兆候だ。

オオカモメは、カモメとしては世界最大の種であり、成長すれば翼を広げた幅が1.6メートル以上にもなる。しかし、この個体が北大西洋の空を飛ぶことはもうないだろう。

同じ浜辺に横たわる数十羽のシロカツオドリも、周辺の島々に散らばる無数の死骸も同様だ。彼らの姿はまるで空から堕ちた天使のようで、頭は後ろに反らされ、翼は広がり、ブルーベリー色をした片目が天を見つめている。

2022年に高病原性鳥インフルエンザのアウトブレイク(集団感染)が発生したとき、最初に人々に警告を発したのは、こうした鳥の死骸や瀕死の鳥たちだった。この鳥インフルエンザウイルス(H5N1亜型)の起源は、1996年の中国のガチョウ農場にまで遡る。
それ以来、何百万羽もの家禽が鳥インフルエンザの犠牲となり、過去には人間の死者が出たこともある。2021年、ウイルスのある株に突然変異が起こり、さらに強い感染力を持つようになった。今年の株は、特に海鳥に強烈な被害を及ぼしている。

「非常に厳しい状況です」と、英国王立鳥類保護協会(RSPB)でシェトランドを担当するケビン・ケリー氏は言う。

ケリー氏はほぼ毎週、防護具に身を包み、鳥たちが集まって水浴びをする内陸の水域に散乱している50羽ほどの死骸を回収、焼却する。死骸がウイルスの拡散を加速させると考えているからだ。彼が集める死骸は、諸島全体で死んだ鳥のほんの一部に過ぎない。

シェトランドでは今年、ヨーロッパでも特に早い時期にアウトブレイクが発生した。ウイルスを持ち込んだのはおそらく、北極圏の繁殖地に向かって北上する水鳥だと思われる。この数カ月の間、多くの鳥が集まる繁殖コロニーを中心に、野鳥の大量死の報告が増え続けている。たとえばギリシャのハイイロペリカンやオランダのコオバシギ、米ウィスコンシン州ミシガン湖のオニアジサシなどだ。

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2022年6月6日、英ベースロック島の海岸付近に横たわるシロカツオドリの死骸。ベースロックにはこの鳥の世界最大の繁殖コロニーがある。(PHOTOGRAPH BY RACHEL BIGSBY)
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2022年7月4日、英シェトランド諸島ハーマネス国立自然保護区の岩肌に散乱するシロカツオドリの死骸。一帯には3万羽のシロカツオドリが暮らしている。(PHOTOGRAPH BY RACHEL BIGSBY)
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かつては囚人が収容されていたスコットランド沖の島ベースロックには、15万羽以上のシロカツオドリが巣を作っている。写真は鳥インフルエンザが発生する直前の2022年5月19日、灯台の周辺に群がる海鳥たち。(PHOTOGRAPH BY CAMILLE SEAMAN)
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2022年7月5日、カツオドリの死骸を食べようとするオオトウゾクカモメ。感染した死骸を食べる捕食性の鳥は、自身も鳥インフルエンザに感染する可能性が高い。(PHOTOGRAPH BY RACHEL BIGSBY)
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