image by: FASHIONSNAP(撮影Mai Endo)

 欧米諸外国はもちろん、日本国内でも近年ジェンダーやセクシュアリティ、フェミニズムについての議論が盛んに行われるようになった。一方で、ファッションとして表層的にそれらを語っている人も少なくなく、一過性のブームであるという批判を聞くことも。そんな中、美術家の遠藤麻衣氏は「フェミニスト」という表象がいかに限定的に見られているかということ、「女性」という括りの中でも単純化されるものではないことなど、「日本のフェミニスト」というイメージを用いた作品を自分の身体を用いて制作。日本発のクィア系アートZINE「MULTIPLE SPIRITS/マルスピ」を創刊するなど、ジェンダーやセクシュアリティの造詣が深い人物としても知られている。

「ウテナ上映会」が開かれたNY会場の様子

 同氏はコロナ禍の2022年からニューヨークに滞在中。本連載ではそんな彼女がニューヨークを中心にクィアでフェミニストな芸術の活動をしているアーティストへのインタビューをベースに「現在のフェミニズムの様相」を独自の視点と切り口で、毎回異なるテーマを設けてアプローチする。

プライド月間に行われた「ウテナ」の上映会
 1990年代日本の少女アニメが、「クィア・カルト・アニメ」としてファンから熱烈な支持を得ている。2022年6月24日、ニューヨークのブルックリンにあるe-flux Screening Roomで、「クィア|アート(QUEER|ART)」の企画による「少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録」(以下:「ウテナ」)の上映会が開催された。6月のプライド月間を祝うという趣旨である。

 ウテナ上映会が行われたスクリーニング・ルームは、様々な分野を跨ぐアートと批評のプラットフォームであるe-fluxが、2020年に映像作品上映のためにオープンしたスペースだ。主催したクィア|アートは、1980年代のエイズ危機によって、指導者となる世代を失ってしまった次世代のLGBTQ+アーティストを支援する目的で2009年より始まった非営利の芸術団体だ。「世代や分野を超えたLGBTQ+アーティストの多様で活気あるコミュニティを支援する」ことを目指し、分野間交流を促すメンターシップ、上映会などのイベント、アーティスト支援のためのアワードといった活動を続けている。この日の上映会も、世代を超えたさまざまな人が集まる空間となっていた。

 本記事ではアーティスト、リサーチとして一年間の予定で東京からニューヨークに移り込んだ遠藤が、クィア|アートのスタッフであり、ウテナ上映会の企画者、ドミニカ共和国出身でニューヨークを拠点に活動するノンバイナリーのアーティスト ダニエラ・ブリトへのメールインタビューを交えながら、「少女革命ウテナ」の美学とクィアネスについて、またこの上映会がプライド月間を祝いながらも、非政治化された「現実逃避」の場所となっていることがいかに重要なのかをレポートしたい。

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