【概要】
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 小口正範、以下、「原子力機構」という。)先端基礎研究センター
表面界面科学研究グループの保田諭研究主幹、福谷克之グループリーダー(国立大学法人東京大学 
生産技術研究所 教授)、国立大学法人北海道大学大学院 工学研究院 松島永佳准教授と
国立大学法人大阪大学大学院工学研究科 Wilson Agerico Dino准教授らは、
一原子の厚みのグラフェン膜で水素と重水素を分離できることを示し、またその分離機構も明らかにしました。

水素(H2)の同位体である重水素(D2)は、電子機器に含まれる半導体集積回路の高耐久化や5G/IoT情報化社会に必須の
光ファイバーの伝搬能力の向上、薬用効果を長くする重水素標識医薬品の開発、次世代のエネルギー源として注目されている
核融合のキーマテリアルとして不可欠な材料です。D2の製造法の一つとして、H2とD2の混合ガスからD2を分離する深冷蒸留法*4が知られています。
しかしながら、この手法は-250℃といった極低温が必要であること、HとDを分ける能力であるH/D分離能が低いため
製造コストが高く、新しい動作原理による分離材料とデバイスの開発が急務となっています。

近年、一原子の厚みのグラフェン膜が、常温で重水素イオンよりも水素イオンをより多く通す性質を持ち高いH/D分離能を有することが示唆され、
常温かつ高H/D分離能をもつデバイスの創製に用いる研究が検討されています
。しかしながら、数多くの研究にも関わらず、グラフェン膜のH/D分離能を示す実験的確証が得られていないばかりか、
その分離メカニズムについても詳細は明らかになっていません。本研究では、実験および理論の両アプローチにより、
グラフェン膜のH/D分離能の有無を明らかにし、そのメカニズムを解明することを試みました。

グラフェン膜のH/D分離能を実験的に再現性良く検証する手法として固体高分子形の電気化学デバイスを利用しました。
デバイス内の水素イオンと重水素イオンが生成する電極部位にグラフェン膜を張り付け、
膜を通り抜けた水素イオンと重水素イオンの量を定量的に評価することでH/D分離能を精査しました。
その結果、重水素イオンよりも水素イオンがグラフェン膜を通り抜けやすく、実験的にH/D分離能を有することを示しました(図1)。
また得られた実験結果を理論計算と比較検証した結果、観察されたH/D分離能は重水素イオンよりも軽い水素イオンが
グラフェン膜を多くすり抜ける量子トンネル効果と呼ばれる現象に起因していることを示しました。

この結果は、長らく論争となっていたグラフェン膜H/D分離能力とそのメカニズムを実験および理論の両アプローチによって明らかにした重要な成果です。
半導体、光通信用材料、重水素標識医薬品の開発といった幅広い分野でキーマテリアルであるD2の安価な製造法として、
また、将来のエネルギー源として注目されている核融合炉での水素同位体ガスの新しい精製法として期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌「ACS nano」に、2022年9月1日(現地時間)に掲載予定です。


https://www.jaea.go.jp/02/press2022/p22083101/
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以下長いのでソースで