職業訓練の案内不十分「努力の機会奪われた」 元受刑者が国を提訴
2022年9月2日 07時19分

 受刑者の出所後の就労支援のために刑務所で行われる職業訓練の案内を、服役中に十分に告知されなかったとして、神奈川県内などの元受刑者が国を相手に国家賠償請求訴訟を起こしている。出所後の就労は再犯防止の鍵になっており、原告は「服役中にチャンスさえ奪われるのはおかしい」と憤る。(米田怜央)

 「この先どう暮らせば良いか全く分からなかった。生活できずに再犯する人の気持ちが分かった」。県内に暮らす原告の三十代男性は顔をゆがめる。

 月形刑務所(北海道月形町)に八年半服役し、昨年四月に出所。仕事を探したが、アピールできる職歴や資格はなかった。暴力団員だった過去から銀行口座や携帯電話は手に入れられず、所持金は二十数万円。「どう動けばお金が尽きるまでに安定した職に就けるのか分からなかった。気持ちばかり焦った」。同時期に服役し先に出所していた男性を頼り、経営に携わる風俗店でなんとか雇ってもらえたが、同様に出所後の就労先が見つからず、暴力団に戻った知人もいるという。

 同刑務所で職業訓練の案内が十分に告知されていなかったと知ったのは服役期間の終盤。他の受刑者の申し出を基に調査した刑務所から伝えられた。「更生は無理と言われているように感じた」という。

 「訓練に応募しても実際に受けられたか、就職につなげられたかは分からないが、頑張るきっかけにしたかった」。昨年十一月、他の元受刑者と、慰謝料など一人六十万円の支払いを国に求めて横浜地裁に提訴した。

 二〇二〇年の国の統計では、刑務所への再入所者の七割超は無職だ。国は就労支援を再犯防止の重要施策に位置付ける。職業訓練もその一環で、各地の刑務所で美容師や介護福祉士などさまざまな資格が取れる。

◆刑務所「告知の義務ない」

 裁判で国側は、一八年九月か十月〜二〇年二月、男性刑務官が道外で行われる職業訓練について、原告を含め担当する受刑者に告知していなかったと認めた。その上で、訓練は応募者の適性を踏まえ選抜するもので「全員に告知する義務はない」と反論している。不告知だった募集は、期間が一八年九月からだとすると最大百七件に上る。原告側は「少なくとも告知は全員にされるべきで、施設長でない刑務官に判断する権限はない」としている。

※略※

https://www.tokyo-np.co.jp/article/199506?rct=kanagawa