https://www.asahi.com/articles/ASQ6G5G4TQ6CUTFL002.html

まだ骨盤に残る腫瘍、死の気配も 「お金がなくなる」と職場に戻った

希少がんである消化管間質腫瘍(しゅよう、ジスト)を患った私(54)は2021年7月、東京都中央区の国立がん研究センター中央病院で手術に臨んだ。

 おなかの中にできた最大径約10センチの腫瘍を切り取る手術だった。午前9時40分に手術が始まり、約2時間で終わった。

 「井上さん、終わりましたよ」

 執刀医からの呼びかけで目が覚めた。

 医師からは、小腸にできていた腫瘍を取り除くことができたとの説明があった。私は一安心した。

 膀胱(ぼうこう)を切り取ることも、人工肛門(こうもん)にすることも見送られた。

 だが、術後の痛みがひどく、七転八倒した。仰向けに寝ていると、ボウリングの球をおなかの上に載せられているような息苦しさがあった。

 手術した小腸や腹膜などが、ほかの臓器や組織にくっつかないように、翌日から病棟の中を歩くことを勧められたが、立ち上がるだけで精いっぱいだった。

 それでも、「日にちぐすり」という言葉の通り、日が経つにつれ痛みが和らぎ、3日後にはなんとか歩けるようになった。

 そして、手術から約1週間で退院することができた。夏の盛りだった。

 秋の間は体力の回復を待ち、職場に戻ったのは昨年12月のことだった。

 2度手術を受け、自宅療養期間を含め丸1年、仕事を休んだ。

 早くジャーナリズムの現場に戻りたかったなどと、格好いいことはとても言えない。