「恵理子は40歳近いから子供はあんまり期待できないじゃん?仮に妊娠できたとしても高齢出産って大変なんでしょ?そんなリスクを負ってまで恵理子に産んでもらいたいと思わないし…。

今付き合ってる子は20代なんだけど、やっぱりさ、若い方がいいじゃない?だからさ、そっちと結婚したいんだよね。申し訳ないけど…」。

肩をすくめ、恵理子に向かって拝むようなポーズをとる健介に恵理子に対する誠意は微塵も感じられなかった。

言いたいだけ言って気が済んだのか、健介は恵理子の反応を気にする様子はなく、布団にもぐりこむとすぐに寝息を立て始める。

「彼の寝顔を見ながら、この10年間のことが走馬灯のように頭に浮かびました。最初は身体だけの関係だったかも知れないけど、愛情が芽生え、確かな情で繋がってると信じてたのにこの仕打ち。

私だって昔は20代でした。私が結婚適齢期も出産適齢期も逃したのは彼のせいじゃないですか…。さんざん尽くして来たつもりなのにあんまりです。ひどすぎます」

やり場のない恵理子の怒りはやがて殺意に変わる。

「私の人生をめちゃくちゃにした男に生きる資格はない」

恵理子は健介が寝ている近く、窓際のカーテンにライターで火をつけ、炎が上がるのを確認すると足早に部屋を後にした。

幸か不幸かすぐに目を覚ました健介が家庭用の消火スプレーで火を消したためボヤで済んだのだが、殺されかけたことを知って健介は警察に相談。恵理子は放火の罪で逮捕されたのだった。

*恵理子はその後、不起訴になっている。

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