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マーヤンラーメン 梅乃家(山田町)
天ぷらに細麺 おやじの味
山田町役場の脇にのれんを掲げる定食屋「梅乃家」には、「マーヤンラーメン」という不思議な名前のメニューがある。沿岸部では定番の細ちぢれ麺に、エビやイカ、町産のシイタケなど5種類の天ぷらを合わせた「ありそうでなかった」一品だ。サクッとした天ぷらは、煮干しだしのスープの中でも崩れず、魚介と野菜のうまみが最後まで口いっぱいに広がる。
「それで、マーヤンって何ですか?」。初めて店を訪れる客の問いかけに、3代目の佐藤和久さん(51)はこう答える。「うちのおやじです」
1933年に創業した梅乃家は、かつて町を代表する料亭だった。看板料理は、和久さんの父で「マーヤン」の愛称で親しまれた守さんが作る天ぷら。子供の頃は「天ぷらや刺し身が弁当に入っていた」という和久さんは、保育園で七夕の短冊に「板前さんになりたい」と書いたという。
その夢をかなえ、盛岡市内のすし店で板前として修業を積んだ和久さん。「いつかは梅乃家を継ぐことになる」と考えていた時、東日本大震災に遭った。自宅兼店舗は津波で2階まで浸水し、直後に町を襲った大火で焼失。守さんは津波を免れたが、避難生活で持病を悪化させ、2011年5月に67歳で亡くなった。後に震災関連死と認定された。
大黒柱を失った梅乃家を復活させたのは、和久さんの母・尚子さん(74)だった。震災後、避難者のためにおにぎりを作ったり、葬式や法事で料理の注文が増えたりする中で、「皆、おいしいご飯を食べたがっている」と思いを強くした。同年12月に定食屋として店を再開すると、生前の守さんが考案したレシピを基に、マーヤンラーメンをメニューに加えた。
15年からは、板前修業を終えた和久さんがレシピを継承し、店を切り盛りする。天ぷらに加え、チャーシュー3枚をトッピングするのも、守さんから引き継いだこだわりだ。「にぎやかで、くだけた性格のおやじが、いかにも考えそうなメニューだ」。食材の仕入れ価格は上がっているが、「おやじの味」を変えるつもりはない。
握り、ちらしずしも
梅乃家は昨年末、再開から10年を迎えた。同級生や親戚からのリクエストを受け、今年5月にはメニューを一新し、握りやちらしずしの提供を始めた。
「誕生日会を開きたい」と頼まれれば、定休日に店を開けることも。「震災から11年たった今、『人が戻ってこない』と言っていられない。山田にいる人たちが盛り上げていくしかない」と和久さんは話す。
店は山田八幡宮の鳥居の真横にあり、年末年始も営業している。気は早いが、この冬は梅乃家で年越しそばを食べてから初詣、というのも良いかもしれない。
メモ
「マーヤンラーメン」は税込み1050円。「めかぶラーメン」(税込み750円)や「かきフライカレー」(同1000円)など、漁師町ならではのオリジナルメニューも並ぶ。
所在地は山田町八幡町7の5。三陸鉄道陸中山田駅から徒歩約5分、三陸沿岸道路山田インターチェンジ(IC)から車で約5分。営業は昼の部が午前11時半〜午後1時15分、夜の部が午後5時半〜午後9時。日曜定休。