その後もマリナさんは、30代後半、40代後半と家庭のある男性と恋をした。家庭のある男性を選んだわけではない。
好きになった人が家庭のある男性だったというだけだ。それぞれの人と「熱烈な恋」をしたが、前のふたりほど燃えなかった。
相手が彼女の情熱と性欲についてこられなかったようだ。
そしてこの半年ほどつきあっているのが50代になったばかりの男性。この人とは趣味で始めた音楽教室で知り合った。
「30歳になったら何か趣味を見つけたいと思っていたんです。音が好きだったのでチェロを習い始めました。その教室で知り合ったのが今の彼。
一緒にコンサートに行ったり、彼の趣味である落語を聴きに行ったり。人が変わると趣味が広がるのがうれしいです。
彼は居酒屋評論家になれるほど居酒屋が好き。職場が違うから気楽で、金曜の夜や土曜日はほとんど彼と一緒に過ごしています」
大学生と高校生をもつ父親だが、彼女と会うときは「ひとりの男」に過ぎない。だが彼女はときおり垣間見える彼の父親としての顔も好きだという。
「彼が居酒屋で魚の骨をとってくれたことがあるんです。きれいに骨を取り除いた半身を私にくれながら、
『なんだかお父さんみたいなことをしちゃったな』と照れたとき、ものすごくキュンとしました。
魚の骨をとってくれるのが普通のお父さんかどうかわかりませんが、彼の別の面を見た気がして…」
年上男との「不倫」に罪悪感はない
彼が慎重に気をつけてくれさえすれば、この関係は誰にも知られないだろうと彼女は思っている。
「あるとき、ふと私って不倫ばかりしてると思ったんですが、別に罪悪感はありません。略奪なんて考えていないから。
でも確実に今、彼は幸せだと思う。私も幸せです。『これは僕の最後の恋。マリナと出会わなかったら、僕の人生はこんなに豊かなものにならなかった』と彼は言うんです」
最後までマリナさんは笑顔だった。確かに彼女に罪悪感はないのだろう。罪悪感を抱えるくらいなら不倫などしないのかもしれない。
年齢差からくる「保護されている感じ」「大事にされている雰囲気」が好きではあるが、それが不倫を選ぶ理由ではないと彼女は言う。
ファザコンから年上に吸い寄せられる女性とは、やはりどこか違うようだ。
「仕事ができて冷静な判断力をもつ大人の男が、私の前では素っ裸の少年みたいになるのが好きなのかもしれない。ギャップが愛おしい。
家庭では父親、夫なのに、裸になればただの男。あられもない姿をさらす、目の前の『この人』が好きなだけなんです」
恋は確かに、人から肩書きや役割を奪う。素の男と女の対峙である。同世代より荒波に揉まれてきた年上男性のほうが情熱がわくのかもしれない。
素と、社会的な立場のギャップは大きいほうが燃えるだろう。「これほどの男が自分に夢中になってくれている快感」に、彼女はどっぷりはまっている。
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