たばこの吸い殻。空き缶。空き袋…。素手でつかみ、レジ袋に入れている。10分ほどして声をかけた。
男性は、大林亮さん（32）＝仮名。4月から毎日、ごみ拾いをしているそうだ。
近所だけでなく、幹線道路沿いや新宿などの繁華街、隣県の行楽地もきれいにしている。
「なぜ始めたんですか？」。繰り返し問うと、重い口を開いてくれた。
「僕は心に重荷を背負っているんです」「周りにいっぱい迷惑をかけてきた」
大林さんは大学時代、知人に金もうけ話を持ちかけられた。
元手として消費者金融から60万円借り、知人に預けたら、持ち逃げされてしまった。借金は膨らみ、最後は親が返済してくれた。
そのショックから就職活動もできず、卒業後はアルバイトと派遣で食いつないだ。
警察の世話になったこともある。最近まで風俗業で働いていたが、嫌気が差して辞めた。
「だから、何か一つ正しいことをしたいんです」
高校3年の卒業前、交際中の彼女が妊娠してしまったそうだ。
中絶するしかないと、彼女と決めた。
その時、頼ったのがクラスメートの「藤川君」。
中絶費用の20万円を借りた。藤川君とは進学先が別で、やがて連絡は途切れた。
返済を催促されたことはなく、金を返さないまま14年になる…。
ずっと心の隅に引っかかっていた20万円。
今春ごみ拾いを始め、毎日続けたら、藤川君に連絡を取る勇気が湧いたという。
当時、JR新小岩駅の辺りに住んでいたはずだが、住所は分からない。交流サイト（SNS）で見つからず、同級生に尋ねても連絡先を知る人はいなかった。
「18歳の清算が終わっていないんです」。
大林さんは言う。
「公園で、子どもたちが捨てたごみを見かけます。『捨てちゃダメだよ』と止める子は、誰もいなかったのかな。
易きに流されず、グッと踏みとどまる子。人生で本当に困った時、助けになるのはきっとその子だと、子どもたちに教えてあげたい」
大林さんは今、派遣先のコールセンターで働いている。まだ貯金はない。
「でも、藤川君に連絡を取りたい。ちゃんと謝って、必ずお金を返すと伝えたい」
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