高橋容疑者は招致活動の組織だった東京五輪招致委員会の正式な委員ではなかったが、途中から「スペシャルアドバイザー」という肩書きで招致委員会に出入り。五輪を東京にもってくるための裏工作の中心的役割を務めていた。自民党関係者がこう語る。

「当時は、東京に決まるかどうか微妙な情勢だったため、招致委がテコ入れとして、IOC委員と太いパイプをもつ高橋さんに票固めを依頼したんだ。高橋さんを担ぎ出したのが安倍首相だった、

というのは、今回の文藝春秋の報道以前から、永田町では定説になっていた。ただ、最初に、高橋さんを使おうと言い出したのは、JOC会長で、招致委でも中心的役割を担っていた竹田さんだったと思う。

竹田さんは、3つ上のお兄さんと高橋さんが慶応の同級生で、自分も幼稚舎からの後輩だった関係で、若い頃から高橋さんと親しく、JOC会長になるときも高橋さんに工作をしてもらっていたという関係。

だが、招致委内部では慎重論もあったうえ、高橋さんが自分の値段をつり上げようと一旦断ったため、竹田さんが安倍さんに相談して動いてもらったんだろう。じつは、安倍さんも高橋さんと旧知の仲だったからね」

 たしかに、安倍元首相と高橋容疑者は、旧知どころか、かなり深い関係がある。高橋容疑者の実弟は、政商として名を轟かせたあげく、二信組事件で逮捕された高橋治則・東京協和信用組合元理事長だが、安倍元首相の父親・晋太郎はこの高橋治則と非常に親しく、タニマチ的な支援を受けていた。

 治則氏自身が事件発覚前、「AERA」(朝日新聞出版)1991年6月18日号のインタビューで、安倍晋太郎との関係について、こう語っている。

「政治家とは、何かをするために、付き合ってきたというわけではない。選挙に出る前からの友人が幾人かいるというだけ。亡くなった安倍晋太郎さんとは親戚です。血がつながっている。よく調べてみると、非常に近い親戚です」

 なんと、安倍家と高橋家は、親戚関係にあったというのである。この事実は、二信組事件が表面化した後、国会の証人喚問でも、中西啓介・元防衛庁長官が証言している。


しかも、安倍氏の父親・晋太郎と高橋治則はただの親戚関係ではなく、不透明な金銭疑惑があった。やはり二信組事件のさなか、故安倍晋太郎の所有していたゴルフ会員権を治則氏が1億円で買い取り、晋太郎元外相の自宅購入資金の捻出に協力していたことが明らかになっているのだ。1995年3月9日付の毎日新聞がこう報じている。

〈高橋氏は九〇年四月、安倍元外相から「自宅購入の資金ねん出のためゴルフ会員権を買い取ってほしい」という依頼を受け、安倍元外相が所有していた静岡県や山梨県などにある四つのゴルフ場の会員権を総額約一億円で買い取った。

安倍元外相はこれをもとに山口県下関市に約一億二千万円で自宅を購入したという。高橋氏は周辺関係者に事実を認め、安倍元外相について「安倍氏とは義父の故岩沢靖氏(元北海道テレビ社長)からの紹介で、家族ぐるみの付き合いをしていた」と話している。安倍元外相の二男の安倍晋三衆院議員は事務所を通し「高橋氏に会員権を買ってもらって自宅の購入資金の一部にしたという話は聞いている」と話している。〉

 こうした黒い関係は、当然、晋太郎元外相の秘書をつとめていた息子の安倍晋三・元首相にも引き継がれていた。当時、治則氏が自分の経営するゴルフ場を使って接待した政治家・官僚のリストが出回ったが、このリストには「安倍晋太郎」とともに「安倍晋三」の名前があった。

 さらに、元特捜検事でありながら闇社会と関係を持ち、石橋産業事件で逮捕された田中森一の告白本『反転』(幻冬舎)には、こんな記述が出てくる。

〈高橋の長男が大学を卒業し、日航と都銀の就職試験を受けた。しかし、どちらも落ち、相談したのが晋三だった。(中略)晋三は二つ返事で就職の世話を快諾。実際、日航への採用の内定が下りた。高橋の長男は舞い上がってしまい、入社早々、会社へスポーツカーで出勤したらしい。
https://lite-ra.com/i/2022/09/post-6227-entry.html