その幹部によると、関氏はこう説明していた。

 「売上高10兆円に向けて、超えないといけない高い山は多い。いま無理な値引き要請をして仕入れ先を敵に回したり、借りを作る局面ではない」

 だが、下請けに対してトヨタ以上に厳しい日本電産のこれまでのやり方からすれば、関氏の手法は甘いと永守氏には映ったのだろう。

 さらに別の幹部が重い口を開いて、こう語った。

 「7月頃に永守会長は関社長を副社長に降格させることを決め、関さん本人もそれを承諾し、残って頑張る覚悟を決めていたと聞いています。ところがその直後、『M&Aなど社内の重要情報は、関社長に連絡するな』との指示が本社の管理部門で出回ったため、やはり退社するのではないかと噂され始めました。

 その後で判明したのですが、どうやら永守会長が関さんに提示した会社に残るための条件は『無報酬で働くこと』だったそうなのです」

 常識的にはありえない条件だが、この幹部はこうした話を聞いても全く驚かなかった。日本電産の上級幹部は、担当部署の業績が悪いと判断されると、本人と合意書を交わした上で、報酬・給料ゼロで一定期間働くことも珍しくないというのだ。

 「合理的で近代的な経営を目指していた関さんは、現場や外国人幹部の信頼が厚かった。関さんが辞めたら、日本電産はまた『古い会社』に逆戻りする。今冬のボーナス支給後には、嫌気がさした幹部らの大量退社が始まるでしょう」(同前)

 永守氏が三顧の礼で招いたと言われる関氏がついに去り、日本電産の先行きはにわかに曇り始めた。後編記事『「社員はみんな子分」日本電産「カリスマ・永守会長」の哲学が、ついに見放され始めた』で、その内情を引き続きお伝えする。

 「週刊現代」2022年9月17日号より

https://news.yahoo.co.jp/articles/36e77ae7f0b2eea7fc5f08fbdd3732b20d6cc8c6?page=2