すべては「外の世界に出れないようにするため」?
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ニューヨークにあるユダヤ教超正統派ハシド派が運営する私立男子校の生徒の99%が、アメリカの共通テストの水準レベルに達していないという、深刻な学力・教育問題を米紙「ニューヨーク・タイムズ」が報じている。

ニューヨーク州の共通テストが行われたのは2019年。主に読解力と数学のレベルを測るものだった。

水準レベルに達した生徒がたったの1%未満である学校は全部で9校あったが、そのすべてが、超正統派ハシド派が運営する男子校だった。

理由は、ハシド派の男子校では、宗教教育ばかりしていて英語(国語)や数学、科学、歴史といった基礎教育をほとんどしていないことにある。

学校や家庭での公用語は、東欧のユダヤ人の間で話されていたイディッシュ語やヘブライ語で、アメリカの公用語である英語は学校で習うことになっている。しかし、英語の識字率の低さからこの英語教育もずさんであることが、明らかになった。同紙の調査によれば、ハシド派の学校が雇っている英語の教師は経験が浅く、肝心の英語も流暢ではないという。

ニューヨークのハシド派コミュニティの指導者たちは「世俗的な世界から子供たちを隔てるために、数多くの私立学校を建設してきた」と、同紙は書く。そのため、学校ではユダヤ教の教義を学ぶことが最優先。宗教を日常生活の中心に置く同コミュニティでは、世俗的な教育は不要であると見なされることが多く、世俗教育に否定的な学校が少なくない。

授業は朝の祈りに始まり、カリキュラムのほとんどはイディッシュ語によるトーラ(律法)とタルムード(口伝律法)の学習に費される。義務化されているはずの英語や数学といった基本教育の授業は、「8~12歳の間しか行われておらず」、しかも一日の最後の授業、つまり生徒が最も疲れ切ったときにのみ行われる。同紙によれば、宗教教育の時間が一日約8時間であるのに対し、基本教育はたった60~90分で週4日のみだという。

同紙の調査によれば、高校生の数学のレベルは「多くの生徒は足し算や引き算はでき、掛け算や割り算までできる者も少なくないが、それ以上のことはできない」。英語はさらに深刻だという。

学校によっては、そもそも英語を禁止していたり、英語の本を一冊も置いていないところもあるようだ。

そのため「毎年、何千人というハシド派の少年たちが、読み書きはおろか、英語を流暢に話すこともできずに中学、高校を卒業していく」のだと、ハシド派の学校で働いた複数の元教師らが同紙に明かしている。

ハシド派の学校の多くが英語教育に極端に消極的であるのは、「英語が外の世界への危険な架け橋になると見なされている」からだと同紙は述べている。

一方、同紙の調査によれば、ハシド派の女子校では世俗的な基本教育により多くの時間が割かれているという。しかし、それでもユダヤ教の教義を学ぶことが最優先であるのは同じで共通テストでは「生徒の約80%が水準レベルに達していなかった」。

こういった偏った教育システムの結果、子供たちが何世代にもわたって体系的に基礎教育から隔絶されており、その多くが失業や貧困、コミュニティへの依存のサイクルに陥っていると、同紙は述べている。

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