https://www.asahi.com/articles/ASQB66KS0Q9DUTFL009.html
防ぎ得た死を減らす 「あの日」を経て救急医の政治家が考えること
日本の外傷診療体制の強化を訴えながら、救急医としてドクターヘリの普及に奔走してきた松本尚さんは、衆院議員に転身してわずか半年余りで、安倍晋三元首相の銃撃事件に遭遇した。事態をどう受け止めたのか、話をきいた。
――7月8日、どこでニュースを知りましたか。
2日後の参議院選挙の応援演説の予定がなく、永田町の議員会館で打ち合わせをしていました。ネットのニュースで「街頭演説中に安倍元首相が撃たれた」という報道を知り、すぐにテレビをつけました。
――大勢の市民が映像を通じて救護措置を見守りました。救急医の立場で、どうみましたか。
「心肺停止」「至近距離で撃たれた」「犯行に使われたのは散弾銃のようなもの」……。正確性は不明なものの、断片的な情報が続々と目に入ってきました。現場で心肺停止でしたから、どんな医師が現場にいたとしても、救命は難しかったでしょう。
ただ、救命の可否は別にして、事件を契機に、改めて我が国の外傷診療の体制について考えなくてはならないとも考えました。つかみ取らなければならない教訓、といえばいいのか。
――それは何でしょうか。
交通事故や災害、事件で、胸や腹部から大量出血するような大けがを負った際に専門に治療を担うのが「外傷センター」です。救える命を確実に助けることができるように、関連学会は診療体制の整備が重要、という提言を昨年5月に出しています。
「外傷死を減らせ」 重症者をセンターで治療、自治体で進むとりくみ
外傷治療の世界では、致命的な傷で医療者が手を尽くしても救えない命がある一方で、適切な治療がすぐにできていれば救命できた可能性があるケースも存在し、「防ぎ得た外傷死(Preventable Trauma Death)」と呼ばれます。