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俺の方が衰えている! 初老の特権「加齢自虐談義」を存分に楽しもう

「初老」──そう呼ばれる年代になったとき、どんな楽しみが待っているのだろう。「はじめての初老」を迎えたコラムニスト・石原壮一郎と漫画家ザビエル山田がタッグを組んだ、「怒らない、悩まない、嫌われないための・・・」いや、「新しい老」とポジティブに向き合うための「初老」養成講座
 文・石原壮一郎/4コマ漫画&イラスト・ザビエル山田

■ 「衰え」を楽しむ、自虐合戦

 初老は日々、折に触れて己の加齢と直面しています。体力が落ちた、目がかすむ、髪が減った、物忘れが増えた、鏡を見たらくたびれた顔が写っている……。これはもう抗いようがありません。生きとし生けるものはすべて歳を加えていきます。

 初老同士が顔を合わせると必ず始まるのが、お互いの衰えっぷりや時代に置いていかれっぷりを比べ合う加齢談義。「老眼が進んでついに老眼鏡を買った」「体が硬くなって足の爪が切りづらい」「音楽配信サービスについて行けなくて、いまだにCDで音楽を聴いている」などなど、ネタが尽きることはありません。

 そこはかとなく哀愁が漂いつつも、それでもどっこい元気に生きていこうという決意も感じられるのが、加齢談義の味わい深さ。加齢談義を楽しめるのは、初老になったが故の大きな特権と言ってもいいでしょう。

 その魅力を存分に堪能するために大切なのは、「いつまでも若くあるべきである」「元気を維持するために最大限の努力を重ねるべし」という呪縛を捨てることです。

 「最近、近くのものが見えづらくてさあ」

 いっしょにいる初老が、スマホを遠くに離して目をしょぼしょぼさせながら言ったとします。そのときに許されるリアクションは「俺もそうなんだよね」の一択。

 「俺はまだ大丈夫かな。日頃から目をマッサージしたり、ブルーベリーの成分が入ったサプリを飲んだりすれば、老眼の進行はけっこう防げるよ」

 優等生的というか説教臭いというか、そんなリアクションをしたらせっかくの加齢談義が台無し。話の流れが健康法談義になった場合は、その手の情報を出してくるのもアリですが、それもひとしきりお互いの加齢を嘆いてからです。

 加齢談義を手堅く盛り上げる上で有効なのは、自虐合戦を繰り広げること。

 「このあいだ久しぶりにラジオ体操をやったら、できない動きが多くてさあ」

 「やり方を覚えているだけですごいよ。俺は『あれ、どうすんだっけ』ってなりそうだ」

 相手が言ったことに対して、自分のほうがいかに情けないかという話をかぶせます。男性ばかりの場なら、下ネタ方面で「いかにふがいないか」「いかに衰えたか」を競い合うのも一興。たまに「俺はまだまだ大丈夫」と自慢を始めるヤツがいますが、

 「いつまでも煩悩を捨てきれなくてかわいそうだね」

 と憐れんでしまえば、悔しさやうらやましさをけ散らすことができるはず。

 加齢談義と似たジャンルの話題としては、病気自慢合戦もあります。何を隠そう初老は、病気自慢合戦をもっとも楽しめる年代。たしかに、シャレにならない病気の話もあります。しかし、酒の席などで交わされる病気ネタは、そもそもそれなりに元気だからその場にいるわけなので、基本的にはノンキに受け止めて差し支えありません。

 初老が得意とするのが、健康診断などで測る血圧や血糖値、ガンマGTPなどの数値比べ。そこでは、悪い数値を叩き出している人のほうが、大きな顔ができます。いや、本当は勝ったとか負けたとか、「すごいね」とか「まだまだだね」なんて言ってる場合じゃありません。ただ、じつは不安だからこそ明るく話しているという一面もあります。

 そのへんの機微をお互いに飲み込みつつ、中途半端な医療知識を元にアドバイスしたりしないのが、初老の暗黙のルール。ま、よっぽど「このままだとこいつ死ぬぞ」と思ったときは、ルールを破るのも初老の勇気ではあります。

 加齢談義にせよ病気自慢談義にせよ、いろいろバランスを取りながら、ありがたく楽しませてもらいましょう。ともあれ、健康には気をつけたいものです。

 【初老の極意】
加齢談義では「俺のほうがより衰えている!」と全力で自虐合戦を繰り広げたい