――2020年3月から続けていた新型コロナワクチンの国内での開発を中止しました。会社の規模以上のことにチャレンジして失敗した、という見方があります。

アンジェスは金、人の両面でこの開発に多くのエネルギーを注いできた。精神的な影響も非常に大きい。

だが、コロナという大変な病気に対し、当社が持つ得意技術である「プラスミドDNA」を使って開発したワクチンでやっつけようと、理想を持ってやった大事な仕事だ。私個人だけでなく、アンジェスという会社として悔いはない。

おしかりを受けるかもしれないが、これが正直な気持ちだ。

——一方で、変異株に対する新たなワクチン開発も発表しています。アメリカのスタンフォード大学と、経鼻投与ワクチンの共同研究として始めるそうですが。

コロナワクチンの開発には、アメリカのスタンフォード大との経鼻型ワクチンの共同研究の形で、引き続きチャレンジしたい。

国内のコロナワクチン開発で使ったのはプラスミドDNAのいわば第1世代で、(中和抗体などの)の発現効率の向上が大きな課題になっていた。だがスタンフォード大が研究している、プラスミドDNAを用いた経鼻投与ワクチンは、マウス実験で高い実績を出している。

ファイザーやモデルナのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは非常に有効性が高いが、アレルギーや副反応がある。一方で当社のDNAワクチンは、mRNAワクチンの副反応などを起こす原因の一つと言われている脂質ナノ粒子を使わない。

また、超低温での輸送・保管が必須のmRNAワクチンと違い、DNAワクチンは常温でも保管ができる。新興国などでも持ち運び・貯蔵がしやすい。

ファイザー、モデルナのワクチンが初期の武漢型に対してあったような90%以上の高い感染予防効果は、これまでのデータではアンジェスのDNAワクチンでは出せない。だが、現在主流のオミクロン型に対しては彼らのワクチンの有効性は30〜40%に落ちている。

コロナワクチンを取り巻く環境、病状が変わってきているが、DNAワクチンは、主流となるコロナワクチンの株の変化などが起きても、ワクチンの設計・開発が迅速にできるため、mRNAワクチンと並んでこうした変化に対応できる。

これまで国内で開発してきたことの責務もあるので、今度はアメリカでDNAワクチンの開発を諦めずにやっていきたい。
アメリカに拠点を置くのは日本から逃げているわけではない

――ワクチン開発の「全面中止」という選択肢もあったのではないでしょうか?

今後は、スタンフォード大学に拠点を置いてコロナワクチンの研究開発を進める。日本での開発を避けているのではなく、アメリカの(有利な)開発環境を考えてのことだ。

アメリカにはBARDA(アメリカ生物医学先端研究開発局)のように、医薬品などの研究開発に補助金などを出す政府の支援システムもある。

――BARDAは新型コロナのパンデミック時、ワクチンや治療薬メーカーへの支援でも注目された機関ですね。アンジェスとしても、これからBARDAから資金をもらうのですか?

まだ(申請の)アプローチはしてないが、将来的にはありうるし、アプローチしたい。

実はBARDAも経鼻型のコロナワクチンの開発を強く推し始めている。日本の開発から逃げ出すという意味ではないが、スタンフォード大の持つ経鼻型ワクチンの技術は、医薬品を体内に伝送する仕組みに優れている。(マウスの実験では)従来技術と比べ100倍以上、(中和抗体などの)発現効率が良い。

悩んだ末に取った今回の選択をぜひ前に進めていきたい。もちろんステークホルダーの間でいろいろな考えがあるのは承知している。

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