核実験場からもれる希ガス、観測精度をアップ 福岡で新たな施設計画

北朝鮮などによる核実験の国際監視網の精度を高めるため、福岡市に放射性希ガスの観測装置を置く計画が進められている。包括的核実験禁止条約(CTBT)機関準備委員会(本部・ウィーン)が移動型の観測装置を持ち込み、データを送信する計画。ただ、新型コロナ禍以降は中断しており、開始の時期は未定。

設置が計画されているのは、福岡市東区の九州環境管理協会(九環協)の敷地内。観測機器を積んだコンテナを設置し、空気中からポンプで試料をとりこみ、放射性希ガスのキセノンをとりだす。九環協はこれまで、東京電力福島第一原発周辺の土壌や海水など、環境放射能を分析してきた実績がある。

核実験は主に地震波、水中の音波、地下実験場からわずかに漏れる希ガスなどを観測して探知する。CTBTはまだ発効していないが、条約に基づく観測施設は世界約300カ所にあり、国内でも群馬県高崎市や沖縄県恩納村など10カ所に常設されている。観測データはウィーンにある国際データセンターに送られ、条約締約国に共有される。

ただ、放射性希ガスは原発や医療機関などからも放出されるため、検知した希ガスが核実験によるものか、ふだんの活動によるものかを区別する必要がある。準備委は検知の精度を高めて核実験を裏付けるため、移動型の観測装置を要所に設置し、背景データを集めてきた。

北朝鮮がたて続けに核実験を実施したことを受け、日本政府は2017年、希ガス観測プロジェクトのため約2・8億円の拠出を決定。準備委は18年から日本原子力研究開発機構(JAEA)と共同で、北海道幌延町と青森県むつ市に移動型の希ガス観測装置を置き、背景データを観測してきた。

九環協によると、朝鮮半島により近い福岡市でも早ければ2020年から観測を始める予定だったが、コロナ禍以降は機材の使い方などを教える技術者の派遣が遅れるなど計画が滞っているという。

岸田文雄首相は9月、各国首脳にCTBTの早期発効を呼びかけるなど力を入れており、外務省の担当者は「核実験の検証体制の整備・強化は、CTBTの早期発効へ機運が高まることにつながる。政府としても着実に取り組む」と話す。

CTBTは96年の国連総会で採択され、日本は97年に批准。だが発効に必要な44カ国のうち核兵器を持つインド、パキスタン、北朝鮮が未署名のうえ、米国、中国などが未批准で発効されていない。外務省によると、日本の分担金は米中に次ぎ3番目に多い。(小川裕介)

https://www.asahi.com/articles/ASQBM6333QBJTIPE009.html

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