https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211004/k10013285481000.html
「妹がジャングルジムから落ちた」
公園の滑り台で遊ぶ小さな女の子。
この写真が撮られた半年後の夏休み、女の子は同じ公園のジャングルジムの下で倒れているのが見つかりました。
わずか6歳で奪われた命。
逮捕されたのは、17歳の兄でした。
「私があのとき、家にいれば」と、母親は後悔を口にします。
事件に至る経緯を取材すると、妹も、兄も、そして母親も、それぞれが追い詰められていたことがわかりました。
「ジャングルジムで遊んでいて妹が落ちた」
ことし8月1日午前9時半ごろ。
大津市の児童公園の近くに住む住民から、119番通報が入りました。
消防や警察が駆けつけ、倒れた女の子を発見。
病院に搬送されましたが、死亡が確認されました。
亡くなったのは、小学1年生の女の子。
当時、一緒にいたのは17歳の兄でした。
住民に助けを求めて、通報を依頼した兄は「ジャングルジムで遊んでいて妹が落ちた」と説明していました。
ジャングルジムは最も高いところで2.4メートル。幅は1.6メートル。
大津市によると、ことし5月には点検を行っており、安全上の問題はなかったといいます。
ジャングルジムから足を踏み外したのか、それとも何かの衝撃を受けたのか。
取材を始めた私は、どんな遊び方をしていたら、ジャングルジムから落ちて亡くなるのか、気になっていました。
”事故”から”事件”に
ところが、その3日後の8月4日。事態は思わぬ展開を見せました。
兄が女の子を死亡させたとして傷害致死の疑いで逮捕されたのです。
逮捕された兄を乗せた車
警察は、当初転落事故とみて捜査していましたが、司法解剖の結果、女の子は内臓の破裂や骨折など全身に100か所ほどのけがをしていたことがわかりました。
改めて警察が兄から事情を聞いたところ、兄はこう供述したのです。
「事件の数日前から妹に暴力をふるうようになった。腹や背中、顔などを素手で殴ったり蹴ったりした」
「妹に暴力をふるったことを隠そうと、ジャングルジムから落ちたように装った」
「妹の世話をし続けることが、つらかったんじゃないだろうか」
なぜ、兄は妹に暴力をふるったのか。
近所の人たちは、仲よさそうに遊ぶ2人の姿をたびたび目撃していたといいます。
スケートボードをしたり、ボールで遊んだり…
10歳以上年の離れた兄が優しく妹の面倒を見ている。近所の人には、そんな風に映っていました。
取材を続けていると、捜査関係者から、こんなことばを耳にしました。
「妹の世話をし続けることが、つらかったんじゃないだろうか」
いったい、どういうことでしょうか。
深夜のコンビニで「1000円ほしい」
自宅付近で取材を続けると、事件前のきょうだいの足取りが分かる映像が見つかりました。
事件の11日前。7月21日、午前0時ごろ。
小学校が終業式を迎え、夏休みに入ったその日でした。
近くのコンビニを訪れた女の子の姿を防犯カメラが捉えていました。
コンビニ店内の防犯カメラの映像
何かを探すように首を動かしながら1人で店内を歩いていましたが、何も買わずにそのまま店の外に出ていきます。
「1000円ほしい」
捜査関係者によると、女の子はコンビニの客に「1000円ほしい」とねだっていたといいます。
コンビニの駐車場を写した防犯カメラの映像
店の外の防犯カメラには、駐車場にいる客に女の子が近づき、声をかけているとみられる様子も写っていました。
駐車場には、兄の姿も写っていました。
追い込まれた2人の異変 警察も児童相談所も気付けず
深夜にもかかわらず、客にお金をねだる小学1年生の女の子と、一緒にいた兄。
このあと、通報を受けた警察が駆けつけ、2人を保護します。
児童相談所にもトラブルは通告されていました。
兄の供述によると、この翌日から妹への暴行が始まったといいます。
自宅に置かれていた女の子の自転車
家の中で行われていたとみられる暴行に、大人たちが気付くことはありませんでした。
警察
「兄の妹への暴力に関する相談や通報は警察には寄せられておらず、コンビニで保護した際も、妹にけがはなかった」
また警察は児童相談所に通告し、児童相談所は母親に電話で連絡をとりました。
しかし、家庭訪問やきょうだいからの直接の聞き取りは行いませんでした。
母親とは面会する約束をしましたが、日付は2週間後の8月4日。
その面会の3日前に、女の子は亡くなりました。
児童相談所
「母親は『兄が妹の面倒をよく見てくれている』と話していた。妹が兄に暴力をふるわれていたというような情報は学校などから得ておらず、緊急性はないと判断した」