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第7波の夏、医療は…県「持ちこたえた」、現場「診療制限するしか」

今も続く新型コロナウイルスの「第7波」。今夏の検査や診療の需要に対し、埼玉県は「医療機関は持ちこたえた」との立場だ。一方、受診制限をせざるを得ない発熱外来もあり、医療機関からは「全容が把握できないほど広がった」という声もあがる。

 第7波への対策として、県は医療態勢を増強。感染した疑いがある患者を診る指定医療機関は、県の要請で7月15日から8月末までに50ほど増えた。医療機関の負担軽減を図るため、抗原検査キットを1日最大4千個配ったほか、陽性者を対象にウェブによる確定診断も実施した。診断数が上限に達する日が少なかったこともあり、「需要に追いついた」と説明する。

 県感染症対策課の担当者が「(発熱外来の数や能力などは)ぎりぎり持ちこたえた」との認識を示す一方で、医療現場の負担を物語るデータもある。県内に1500前後ある指定医療機関に向け、1週間ごとに「逼迫(ひっぱく)ぶり」を尋ねる調査の数値だ。

 県によれば、7月中旬から「逼迫」と答えた医療機関は半数を超え、7月25〜29日の週に74・0%でピークに達した。8月15〜19日の週には58・8%となり、8月22〜26日の週は44・5%に下がったものの、高い値が続いた。

 ただ、この調査は病床使用率などの客観的なデータと異なり、「逼迫ぶり」を問う主観的なもの。回答率は5分の1ほどで受診制限の有無を尋ねていないため、現場の状況を正確に反映したものでもない。

 県が設けたオンライン診療の窓口でも、アクセスの集中で申し込みができない時間帯があった。検査・診療を希望しながら受けられなかった人がどれだけいたのか。県によると、そうしたデータを把握する仕組みもないという。

 医療の現場からは「逼迫する現場の状況や、検査や受診できなかった人の声が、政治や行政に届いていない」という声があがる。

 8月下旬、午後3時過ぎ。「ふじみの救急病院」(三芳町)では、100台以上収容できる駐車場が、8〜9割埋まっていた。地元で受診が難しかったのか、大宮や熊谷ナンバーの車も並んでいた。

 同院は、県外を含めて陽性の疑いのある患者を積極的に受け入れてきた。しかし来院者が急増し、7月22日から県内の患者に限定。検査数も1日約1千人に制限した。この上限に達する状態が、8月25日ごろまで続いたという。

 鹿野晃院長は「車が院を取り巻いて渋滞する状態になり、制限せざるを得なかった。完全予約制なので、上限を超えた需要がどれだけあったのか分からない状態になった」と振り返る。

 受診制限は、他の病院でもあった。坂戸中央病院(坂戸市)では、7月中旬から1日30人に絞った。「どこの病院も同じでは。第6波ではこんなことはなかった」。PCR検査の試薬が底をつき、発熱外来を休止した病院もあった。

 政府は今月26日から、新型コロナ感染者の全数把握の簡略化を全国一律で導入する方針を明らかにするなどしている。鹿野院長はこう注文する。「感染状況をしっかり把握しないと、子どもも含め、必ず犠牲者が出る。それは容認できない。第8波に備え、感染者を減らす根本的な政策を進めてほしい」