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大阪珍百景 梅田の「ビルをぶち抜く高速道路」はなぜ誕生したのか? 背景にある立体道路制度をひも解く

都市高速がビルを貫く場所
皆さんは「大都市」にどのようなイメージを持つだろうか。高層ビルが立ち並び、その隙間を無数の道路が網の目のように張り巡らされている――そんな光景ではないだろうか。
それは、大都市の道路交通におけるバイパス機能を果たす都市高速も例外ではない。性質上、一般道路のような平面交差はほとんどなく、基本的には高架区間や地下区間で地上に立ち並ぶビル群を避けて建設されているのが一般的であり、一般的にイメージされる大都市の風景にマッチするのではないだろうか。
ビルの地上部分を都市高速が貫いている光景など、ほとんどの人が想像しないし、信じてもくれないだろう。だが、そんな場所が大阪市福島区に実在するのだ。
貫く都市高速は、阪神高速11号池田線「梅田出入口」。大規模な再開発工事で話題の「うめきた」地区への最寄りであるこの場所の、大阪空港(伊丹空港)方面からの流出路が、ビルの地上5〜7階部分を貫いている。
一方、貫かれるビルは地上16階、地下2階、棟屋1階で構成されるTKPゲートタワービル。LPガス設備賃貸業や不動産賃貸業をなりわいとする末澤産業がオーナー(地権者)であり、現在は貸し会議室運営大手のティーケーピーが、梅田出入口の流出路が貫いている階層以外の全てのフロアを1棟借りし、全館、TKP大阪梅田ビジネスセンターとして運営している。
地上1階部分や地下部分ならばいざ知らず、文字通り道路がビルを貫く光景は、日本のみならず世界的にも珍しい。そんな珍しい光景は一体なぜ誕生したのだろうか。その背景には、地権者である末澤産業と道路運営者である阪神高速道路公団(現:阪神高速道路株式会社)、双方の思惑のぶつかり合いがあった。
難航した用地買収交渉
1980年代半ば、末澤産業は自社が所有する土地に高層ビルを建設しようとしていた。場所は大阪駅に近い、大阪のキタの中心地、梅田。まさに大阪の一等地と呼べるほど地価が高い場所であり、加えて当時この地区は
「土地の高度利用」
という考え方に基づき高層ビルの建設が奨励されていたため、末澤産業によるこの場所での高層ビル建設は勢いづいていた。
同じ時期、公団は阪神高速への流入路しか存在していなかった梅田入口に出口を付加し、梅田出入口として運用しようとしていた。当時、阪神高速からキタへアクセスする場合は、現在の梅田出入口よりもひとつ手前の出口を利用して一般道路経由で到達しなければならず、キタでは慢性的な渋滞が発生していた。そして、この渋滞を解消するという使命を帯びた公団が、最終的に選んだのがこの場所だったのだ。
かくして、公団が末澤産業に用地買収の提案を持ち掛け、両者がそれぞれの思惑を抱えながらこの場所を巡った交渉がスタートした。
ただ、末澤産業は頑として首を縦に振らなかった。それは、この場所が持つ価値を考えれば当然の意志表示だ。公団としては、公共の利益の名の下、強制的に土地を召し上げる「土地収用」という切り札もあった。だが、この場所が持つ価値と末澤産業の意思を尊重し、その切り札は使わなかったのだ。粘り強く交渉を続け、気づけば数年の月日が流れていた。
そんなある日、滞った用地買収交渉に一筋の光が差した。それが、1989(平成元)年の法改正で誕生した「立体道路制度」だ。
街づくりの可能性を広げた立体道路制度
道路と聞くと、多くの人々は地表面、すなわち路面のみをイメージすることだろう。確かに、言葉通りに捉えればそういう解釈となる。
ところが、道路ひとつとっても法律が絡み、道路は法律上「道路区域」という領域で定義される。この道路区域が厄介で、なんと路面の上空も地下も道路区域と定義されるのだ。つまり、多くの人々が平面であると考えている道路は、実は法律に照らし合わせると
「上下方向に長く伸びる“立体"」
なのだ。
言うまでもなく、道路区域内を勝手に占有することは許されない。ある日突然、道路の真ん中にビルや住宅が建設されたり、何の予告もなく道路を封鎖したりしてイベントが開催されることがないのはこのためだ。
そして、道路区域の定義が路面の上下含めた立体空間である以上、たとえ路面に接していなくても基本的には道路区域内に何かを建設してはならないのだ。この解釈は都市高速に多く見られる高架部でも同様である。
例えば、高架下を個人や法人が何かで使用したい場合、その者は道路管理者から道路占有許可を受けなければならない。つまり、このルールに基づけば、都市高速がビルを貫くということなどあり得ず、街づくりを立体的に捉える場合、かなりの制限がかかっていたのだ。