https://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0903Y_Z01C12A1000000/
「本当はシャープと最後まで一緒にやりたい気持ちはあるのだが…」。
半導体加工技術のフィルテック(東京・文京)社長の古村雄二は複雑な表情で語り始めた。
富士通の半導体技術者だった古村は2001年にフィルテックを設立。数年前から大気中でガラス基板にシリコンなどの薄膜をつくる新しい半導体製造技術の開発に専念してきた。
真空装置が不要になるので装置価格が10分の1にまで下がるという。薄膜太陽電池や液晶パネル向け装置としての成長性もあり、いち早く目をつけたのはシャープだった。
「古村さん、開発できたら画期的だよ。その時はシャープとぜひ独占契約してほしい」。こんな言葉を励みにして、古村は実用化を急いできた。
ところが、8月下旬、韓国から国際電話が入る。「実用化まであとどれぐらいですか?」。液晶パネル世界首位のLGディスプレーからだった。電話の相手は日本企業からスカウトされた技術者のようだったという。
有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)向け製造装置の技術情報を収集している過程で、フィルテックを探り当てたようだ。
「もっと大きいサンプル基板を送ってくれないか」
「その技術を採用した製造装置を日本で作ってみてくれないか」
そこからLGの動きは早かった。一方、液晶テレビ事業の失敗で会社存亡の瀬戸際に立たされるシャープからの反応は鈍い。「我々も生き残っていかないといけないから…」。古村はLGへの技術供与に傾いている。
フィルテックの古村のように、日本の中小企業もできれば日本の電機大手と組み、エレクトロニクス産業の技術的な底上げに貢献したい気持ちは持っている。
しかし、成長著しい韓国メーカーと組めば、時には世界標準規格に採用され、世界市場に打って出る機会に恵まれることもありうる。しかも、韓国企業と付き合いが始まると、意思決定の早さにどんどん引き込まれていく。
「決裁権を持つ役員クラスが韓国から飛んできて、その場で決断して日帰りする。議論を持ち帰って返事がなかなか帰ってこない日本企業と大違いだ」
東京工業大発のベンチャー企業、ゼタ(横浜市)の社長、高橋光弘は韓国企業の決断の早さに驚きを隠せない。