UTokyo映画祭2022
東大の様々な分野の研究者12人に、各々の専門分野の観点からお薦めする作品を紹介してもらいました。映画を鑑賞する際の手引きとして、
また、各研究者が進める学術への興味を高めるきっかけとしてご覧ください。
国際政治学者 お薦めの一本
『博士の異常な愛情』
ブラックユーモアで捉えた米ソの核開発競争
国際政治学の議論というのは得てして抽象的になりがちで、掬いきれない部分がどうしても残ります。たとえば、アフガニスタン紛争の際に様々な議論がありましたが、
市井のアメリカ人がどう受け止めているのか、なぜ紛争に賛成するのかなど、わからないことばかりでした。最近なら米中の対立を見て「中国政府が」とか「習近平体制が」
などと言って考えますが、それでは中国に暮らす人から世界がどう見えているのかはわかりません。相手の社会を知らずに決めつけるのは危険ですが、これは国際政治学
では手が届かない部分です。その点、映画は違う。フォーマルな理論とは違う引いた視点から捉えることで見えてくる社会の姿というものがある。そんな思いを胸に映画を観てきました。
アメリカの戦争はどう語られてきたのか。これが私にとっては重要なテーマであり続けています。アメリカで武力を用いた物語といえば西部劇ですが、たとえば『駅馬車』が
描き出す時代は、決して戦争に肯定的ではありませんでした。第一次世界大戦期には、欧州が舞台の戦争に参加すべきなのかという疑問が広がります。『西部戦線異状なし』は、
ドイツの若者が戦場で死ぬ物語。描かれたのは、悪者としてのドイツではなく避けるべき悲劇としての戦争でした。
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00177.html