横転して骨折、娘と困窮…31歳女性フードデリバリー「壮絶生活」

日本の生活困窮者の支援現場では、フードデリバリーの配達員をやっている、あるいはやった経験があるという人が少なくない。

配達員は立派な職業の1つではあるが、即日で収入を得られる、人と関係性を持たずに済むといった特徴が、生活困窮者に選ばれる要素となっており、結果として支援につながる人の率が高くなるのだ。

【前編:フードデリバリー「体調崩し家を失った」悲惨な告白】につづいて、フードデリバリーの闇に光を当てたい。

〇31歳女性

平本智里(仮名)はレストランとスナックを掛け持ちして、シングルマザーとして未就学児の娘を育てていた。だが、新型コロナの感染拡大によって仕事を失ってしまう。

そんな智里が選んだのが、当時テレビでよく取り上げられていたフードデリバリーの配達員の仕事だった。調べてみると、都心であれば高収入も夢ではないという。

◆「生活費を入れなさい」

彼女は埼玉県の郊外に暮らしていたため、子供を実家に預け、自分は都内に暮らす女友達とルームシェアをすることにした。女友達も同じくコロナ禍で生活苦に陥っていたので家賃の負担を減らしたいと考えていたのだ。

東京に出てきたばかりの頃、智里は月に40万円ほど稼いで貯金をしてから次の仕事を見つけたいと考えていた。だが、実際に初めてみると、月収が20万円に届くことはなく、体力的にも大変だった。

また、実家の親からは、絶えずこう言われつづけた。

「あんたの都合で子供を預かるんだから、ちゃんと生活費をうちに入れなさい」

両親も生活が苦しく、孫を育てる余裕がなかったのだ。

智里は収入を増やすため、それまで距離を置いていた繁華街で配達員をやることにした。だが、仕事はたくさんあるものの競争率も高く、酔っ払いに絡まれるとか、タクシーや警備員にどやしつけられるといった精神的な負担も大きかった。止めていた自転車をパンクさせられたこともあった。

そんなある日、アパートをシェアしていた友人から、生活に疲れたので田舎に帰ろうと思うと告げられた。彼女もまたコロナ禍での暮らしに消耗していたのである。

智里は配達員の仕事をはじめるに当たって装備品の購入や引っ越しなど初期投資をしていた。その分を回収することもできないまま、仕事を投げ出すわけにはいかない。どうすればいいのか。

悩んでいる最中に、事故が起こる。雨の日、仕事を終えて帰る途中に横転。足の骨を折ってしまったのだ。疲れ切っていたこともあったのだろう。後日、会社に問い合わせたものの、終業後の事故だったため、補償の対象外だと言われた。

智里は智里は埼玉に帰ることを決めたが、実家からは孫に加えて無職の娘を受け入れる余裕はないと突き放された。智里はやむなく自治体に相談。母子生活支援施設に入って生活保護を受けてから、暮らしを立て直すことになった。

このように見ていくと、生活に困った人が配達員の仕事に飛びついて、すぐに高収入を得ることが難しいことがわかるだろう。事故に遭わなくとも、自転車の盗難や故障、装備品の不足や劣化、携帯電話の紛失などが起きる可能性もある。

知識を持った人が万全な準備をした上で専業としてやるならともかく、生活苦から予備知識もないまま飛びついても、高い収入を得るどころか、ギリギリの生活さえ崩壊してしまうリスクがあるのだ。

一般社団法人「つくろい東京ファンド」は、22年の6月から配達員に特化した支援を行っている。新規事業部長を務める佐々木大志郎はこう語る。

「うちに相談に来る人たちの多くは、専業で配達員をやっているというより、いくつかの日雇い労働を掛け持ちしていることがほとんどです。複数ある日雇い労働の1つが配達員の仕事という位置づけですね。

なぜいくつもの仕事を掛け持ちするかと言えば、専業でやっていくことが難しいからです。それは配送員以外の日雇い労働も同じで、1つ1つの仕事の収入がどれも低いので、いくら働いてもなかなか生活苦からなかなか抜け出せないのです」
https://news.yahoo.co.jp/articles/fc8f9e488c3e153a8714af730d4d4b825c017c72