コント集団「ザ・ニュースペーパー」の舞台には、まだ彼がいる。安倍晋三元首相のことだ。銃殺事件直後から、今も福本ヒデさん(51歳)が演じている。
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●体の動きや口調を徹底研究
福本さんは、2008年9月に初めて安倍元首相と対面した。妻昭恵さんに誕生日パーティーの余興として呼ばれたのだ。当時は第1次政権で総理を辞した1年後。まさか本人の目の前とは思わなかった。
「緊張しすぎて胃がきりきりしましたよ。何にも言わないで横で見ている。顔色うかがいながら大丈夫かなと」
関係者ばかりの完全アウェー状態。それでも芸人魂は揺るがなかった。「これからは始球式に出ますよ。投げ出すのは得意ですから」。会場はしらけたが、安倍氏は優しかった。「いつからやってるの?」などと短い会話を交わした。元々顔が似ているわけでもなく、メンバー間の消去法で演じるようになったが、動きや口調を研究した。
●うれしかった「有難う」のメッセージ
再度まみえるのは、第2次政権になってからの2018年、2019年のこと。首相公邸のクリスマスパーティーに余興として呼ばれた。夫妻はにこにこしながら30分のコントを立ったまま見ていた。
潰瘍性大腸炎を難病だと知らず、ネタにしていたことを詫びると「全然いいよ」と達観している様子で「強い人だな」と感じたという。翌日には知らない番号から着信が。本人だった。「安倍晋三です。またお願いしますね」。かけることはないとは思いながらも、番号を登録した。
その後も招かれた桜を見る会では、写真撮影で定位置ではない場所に移動して安倍氏の後ろを陣取ったり、公邸を訪れたりと交流は続いた。昭恵さんから安倍氏が使っていたネクタイをもらった。安倍氏のサイン入りのそれは、大事な場面で使うと決めている。
2020年8月に安倍氏が退任を発表した日、なんだかもやもやして公邸や国会の周りを歩いた。一言伝えたい。あの日登録した番号に電話した。出なかったが、留守電にメッセージを残した。「演じさせてもらったおかげでいろんな経験できました」
2時間後、ショートメッセージが届いた。「有難う」。短かったが、感激した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8b7eeba4d9f09e22ee3f9c8214107fbbf1a0061d
続)