「退職金制度は廃止」「国債はネズミ講」...なぜ日本は“安い国”になったのかコロンビア大学・伊藤隆敏教授が語り尽くす
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コロンビア大学のビジネススクールで「なぜ日本はこれほど”安い国”になったのか」をテーマに講演を行った伊藤隆敏教授が、テレビ東京の単独インタビューに答えました。「40〜50代は生産性以上の給与をもらっている」「退職金を廃止して今の労働者に前払いすべき」など、“逃げ切り世代”には耳の痛い話から、ミレニアル世代、Z世代への提言まで語ってくれました。
なぜ日本は“安い国”になったのか
ーー講義のテーマにもありますが、なぜ日本はこれほど安い国になってしまったのでしょうか。
最近の状況では対ドルで円安が急速に進行したというのが説明にはなるが、物価も欧米に比べて上がっていない。アメリカはインフレ率8%を超え、日本は2%から3%だ。今、日本では物価高で大変だと騒がれているが、アメリカから見たら大したことない。それぐらい8%と2%の差は大きい。
ただしインフレ率格差と価格差を両方加味した実質実効為替レートで見ると、日本は1995年をピークとしてずっと下がっており、今やそのレベルは1972年ぐらいの水準だ。そういう意味では長期的な現象であるということをまず理解する必要がある。
なぜ、この現象が起きているのか。一つは為替レートが上下する中で、日本は物価の上がり方が極端にゼロだった。一方、アメリカはコンスタントに上がっている。これがほぼ30年続くと差は大きくなる。そういう意味では根本的な要因はやはり日本の物価が上がらなかったことだ。なぜ物価が上がらないかというと、賃金が上がらなかったから。賃金と物価の上昇が30年間ゼロ。これが一番の問題だった。
ーー日本の賃金がずっと上がってない状況を解決するためにはなにが必要か。
賃金が上がっていないのは、企業が上げたくないからで、労働者もあまり上げろと要求しない。その両方があまり賃上げに対して熱心ではないことだ。
企業が上げたくない理由は生産性がそれほど上がっていないからで、労働者に還元する必要はないと考えている可能性が高い。労働者が上げろと言わない理由は、特に正規労働者の場合は、自動的に1年ずつ年功賃金によって上がっていくため、それでいいと思っている可能性がある。また、あまり賃上げを要求すると仕事そのものがなくなると心配する、特に正規労働者が多いことだ。
「終身雇用」と「年功賃金」が賃金の硬直性をもたらしている。必要な部署、必要な人材、例えばシステムエンジニアや海外で通用する人材の給料がなかなか上がらずに人手不足になり、結局企業がそうした部分を充実させることができず、生産性が上がらない。そこは割り切って必要な人材は高い給料で雇う。企業の外からでも企業内のシフトでもいい。生産性を上げて、賃金を上げるよう方向転換しないと非常にまずい。
年功賃金は長く企業に在籍してもらうことで、企業の中だけに通用するスキルを身につけて、賃金を50歳を過ぎてから高くなるように設定することで、労働者が企業内に留まるようにする、つまり長期雇用と表裏一体だった。だが現在「30年後に通用するスキルを学んでいるから低賃金で我慢しろ」は通用しない。必要な人材、必要なスキルを持っている人材に正当な賃金を払うという考えへ変える必要がある。
今の若い世代を見ていると、「今は安い月給で我慢しろ。あと20年したらいい時代が来る」と言われても我慢できなくなる人が続出している。企業もこれから40年存続するかどうかもわからない状況だ。
今やっている仕事でスキルを積んだとしても、本当にその後の30年、役に立つかもわからない。20年後、30年後はもっと激しい技術改革が起きると考えたら、今やっている仕事で良い成果を出せばすぐ賃金が上がるとならないと、労働者もよいスキルを身につけるインセンティブもない。人も移動していかない。企業、社会全体の生産性が上がらず、停滞した企業、社会になってきている。