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岸田首相、自動車業界に賃上げ期待 定期対話を創設

岸田文雄首相は2日、首相官邸でトヨタ自動車の豊田章男社長ら自動車業界の関係者と意見交換した。自動運転や脱炭素など業界が抱える課題を首相が直接聞き取り、協力する考えを伝えた。足元の物価高を踏まえ一段の賃上げを期待する。豊田氏は自動車関連税制について要望した。

首相が特定の業界と協議する場を設けるのは異例だ。対話は定期的に開く枠組みとする。初会合の2日は首相が関連業界の基本的な立場や方針を聞いた。次回はサプライチェーン(供給網)をめぐる問題などを話し合う。

経団連の十倉雅和会長のほかヤマハ発動機の日高祥博社長、いすゞ自動車の片山正則社長らが出席した。政府側からは西村康稔経済産業相や斉藤鉄夫国土交通相ら関係閣僚が加わった。

自動車業界のメンバーは経団連で自動車関連の政策を議論する「モビリティ委員会」の委員だ。十倉氏肝煎りの3つの政策委員会のひとつで、自動車や運輸、IT(情報技術)、金融といった200社超が参加する
自動運転や次世代移動サービス(MaaS)を生かした成長戦略をまとめ、政府に提言する。脱炭素やデジタル化といった業界を超えた課題に向き合うためには国の政策が重要になるためだ。

首相は「経済・雇用を守り抜くために官民が連携してさらなる成長にチャレンジしていく」と訴えた。「強靱(きょうじん)で先進的な自動車産業がグローバルな事業展開を中核として、日本に存在していくことが重要だ」と語った。

首相が自ら自動車産業に照準をあわせるのは政権が重視する賃上げへの影響力が大きいとみるためだ。

トヨタはこれまで賃上げ相場のけん引役だったものの、4~9月期の連結決算は純利益が前年同期比で23%減だった。鋼材など原材料の価格や燃料費の高騰が響いている。首相は世界的なインフレ下でも2023年の春季労使交渉で賃上げの勢いを保てるかを注視する。

12月には連合による春季労使交渉の具体的な取り組み方針の決定を控える。首相は発言の締めくくりで「これまでの賃上げや取引適正化について積極的な取り組みを政府として高く評価している。引き続き協力をお願いする」と念押しした。

自動車業界にとっても首相との直接対話には利点がある。12月にかけて予算編成に加え、税制改正論議が本格化するためだ。税制の要望や陳情は通常、自民党の税制調査会が窓口となる。事実上の決定権を握る首相への要望は特別な機会が要る。

豊田氏は会合後、記者団に政府への要望をとわれ「自動車関係諸税が結構高くなっている」と言及した。「これだけ世の中が変化する中で、そういう財源をどう使えば国の競争力がどう上がるかという議論がスタートした」と明かした。

自動車業界は税制改正で自動車重量税に適用する「エコカー減税」制度を延長・拡充するよう求める。燃費基準の達成度合いに応じて自動車にかかる税負担を軽減する仕組みだ。

自動車関連の税制の抜本改革には慎重論が根強い。政府・与党では走行距離に応じて課税する案が取り沙汰され、検討課題に位置づけている。購入時や車検時など複数回にわたり課税される仕組みの簡素化も主張する。

海外では脱炭素を加速するために自動車メーカーに電気自動車(EV)化を促す動きが強まっている。トヨタをはじめ業界には日本勢が強みを持つハイブリッド車(HV)も生かした段階的な脱炭素を国際社会で発信することへの期待もある。