市庁舎では夜が更けるにつれて、ろうそくの灯りが一帯に広がった。中高年を中心としたマスク姿の抗議者の顔は暖かい灯りに照らされていた。

2人の子供を持つ建築家のヨム・ソンウォンさん(59 )はセウォル号事故のことをいまでも鮮明に思い出すという。

「あれはとても悲しい出来事だった。こんなことがまた起こるなんて信じられない。だからここに来ました」

「胸が張り裂けそう。あまりに無意味な事故なので」

「政府は彼らを無視した。何があっても国民を守り、安全を確保すべきなのに」

<解説>再び裏切られた若者たち――ジョナサン・ヘッド東南アジア特派員、ソウル

韓国では、修学旅行中の高校生を中心に304人が死亡した2014年の旅客船「セウォル号」沈没事故でも、当局の対応に不満を持った国民から怒りが噴出。当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領への批判にもつながった。

そして今回、またしても純粋な若者たちが、シニカルな年長者たちに裏切られたという感覚が、梨泰院の事故についても広がっている。

「古い世代がまた若者を死に追いやった」と、動画投稿アプリTikTok(ティックトック)ユーザーの1人は述べた。「過去が私たちの未来にかみついた。どうして私たちは、こんなことを許すのか。きりがないこの連鎖はいつか断ち切れるのか」。

ユーチューブ・ユーザーの1人は、「国は私を守ってくれない。20代の韓国人としてすごく実感している。すごく落ち込んでいる」と書いた。

「ここは本当に21世紀の先進国なのか。この韓国で暮らし続けるために、私たち若者は誰を信じればいいのか」

「政治家たちは権力にしがみつきさえすれば、なんの責任もとらなくていいと思っている。そんな態度に吐き気がする」

韓国での安全性が急速な経済成長のために犠牲になっているという考え方は、今に始まったことではない。

同国では大惨事が起こるたびにこうした声が聞かれてきた。そして、安全確保について当局の姿勢は変わるという約束が繰り返された。

セウォル号事故から8年後の今年4月、次期大統領として尹氏は次のように約束していた。

「韓国をより安全な場所にすることが、犠牲者への哀悼の意を表す最も誠実な方法だと信じている」

梨泰院での事故をきっかけに国民の怒りが高まる中、尹氏のこの公約をめぐり、政権が試され、その手腕が問われることになるだろう。

(英語記事 South Koreans demand justice for Itaewon dead/Itaewon crush: 'My country won't protect me')

https://news.yahoo.co.jp/articles/56cf0f7c2b06d583ea6db0eec51f9a7328f23a4f