20代女性の梅毒感染者が急増 若い体を「商品」にする男たちの買春文化が問われないのはなぜ?〈dot.〉

作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、20代女性の梅毒感染者急増について。

「男が買春するのが当たり前なんて国、既に先進国じゃねーんだよ!!」
女友だちが、赤ワインを片手にしながら大声でそう叫んだ都心のイタリアン。
その瞬間、全ての客席の会話が途絶え、こぢんまりとした店内には文字通り沈黙が流れた。
私はホールに背を向け座っていたのだけど、厨房を含めた全ての人の関心を背に熱く感じる。
さっきまで酒の入った大声で“昔の女”の話をしていた隣席の男たちのテーブルが完全に固まっているのがわかる。
うわぁー!と、背中が熱くなり、目の前の冷めたアヒージョをパンでぬぐいながら、
でもひるむことはないのだと、しっかりと思う。だって、間違ってないから。

私たちは梅毒について、話していた。いったいなぜ、今の日本で梅毒が増えているのか。
2011年から全ての都道府県で感染者が徐々に増えているといわれていたが、
ここ数年、コロナ禍と重なるように感染者が急増した。国立感染症研究所のデータによれば、
男性はほぼ全ての世代で増加し、女性に限っては20代が突出している。
SNSなどでは、梅毒感染者が増えた理由はマッチングアプリで若い女性たちが気軽に不特定多数とセックスしていることが原因だなどといわれているが、マッチングアプリが原因ならば全ての世代の女性で梅毒が増えなければおかしい。
また梅毒の感染者数が話題になりはじめた2010年代には「外国人旅行者が増えたからだ」と説明する記事もあったが、であればこのコロナ禍の日本で急増した説明がつかない。
女性だけ20代、男性は全ての世代という年齢のばらつきを素直に考えれば、買春男性(全ての世代)と、
性産業の女性たち(若年層が突出している)の世代分布と一致すると考えるのが自然だろう。
残酷なのは、感染すると男性器に異変が出やすい男性と違い、女性の場合は深刻化するまで無症状の人が多いことだ。
また、初期であれば1回の注射で完治する梅毒治療の薬(海外で長年使われてきた)が日本で承認されたのは、なんと昨年のことである。
梅毒感染者増加がいわれ続けながら、ほぼ何も対策が取られずにきた結果だ。
梅毒は性交や母子間で感染する。感染部位と粘膜や皮膚の直接の接触によるもので、男性器にコンドームをつければ感染しないというものではないが、
そもそも男性器を洗わず(というか体すら洗わず)行為することがサービスと捉えられていたり、洗っていない男性器をすぐに口に含むことに
価値が持たれたりしているような日本の性産業“文化”で、買春者の相手をする女性たちの健康はおびただしく脅かされている現実がある。
にもかかわらず、梅毒増加の報道などから感じるのは、「20代の女性たちの性意識・危機意識の変化」を求めるような姿勢だ。
母子感染が脅しのように使われ、将来母体になる可能性のある身として、リスク回避を若い女性たちに求めている
報道側の意識をうっすらと感じるとき、私も冒頭の女友だちのように机をバンッと叩いて叫びたくもなる。
なぜ、男たちの買春文化は問わずに、女たちの性行動や性の価値観を問題にするのか。いったいこの種の悔しさを、私たちはいつまで強いられるのだろう。
(中略)

https://approach.yahoo.co.jp/r/QUyHCH?src=https://news.yahoo.co.jp/articles/492fb774bf89b059bda026b5f55c14881085f116&preview=auto