https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221108/k10013884101000.html

赤ちゃん寝かしつけ “背中スイッチ”覆る 科学で導き出すコツ

「今夜も寝てくれない」「いつ泣きやむのか」「こっちも泣きたい」...

どうすれば赤ちゃんを上手に寝かしつけられるのか。

これまで明確な答えがなかった問いに、4人の子どもを育てる研究者が科学で答えを出そうと挑みました。

すると、あの通説“背中スイッチ”を覆す驚きの発見も。寝かしつけや夜泣きに悩む親たちにぜひ知ってもらいたい研究の成果です。

後段に「寝かしつけのコツ」をまとめています。

研究者自身の子育ての苦労が出発点
泣いている赤ちゃんの「寝かしつけのコツ」に科学で挑んだのは、理化学研究所脳神経科学研究センターの黒田公美チームリーダーの研究グループです。

4人の男の子の母親でもある黒田さん。

今回の研究テーマは、初めての子どもを育てたときの苦労が出発点になっているといいます。
「夫も私も、子育ての経験が初めてだったので、どうして泣いているかがわからないというのが本当に大変でした。永遠に泣き続けるのではないかと感じ、体におかしなことが起きているのではないかと心配になったこともあります。夜になっても寝てくれないこともあって、何が赤ちゃんの泣きやみや寝かしつけに効果があるのかはずっと知りたいと思っていました」。
赤ちゃんを泣きやませる方法は、おんぶやだっこのほか、ゆりかごを使った方法や、赤ちゃんを布でくるむ「スワドリング」という方法など、地域や文化、それに家庭によっても効果があるとされているものが異なります。

黒田さんは、効果を直感や通説ではなく、科学的に示すことができれば、子育てに悩む親たちの役に立てると考えました。

「自分には正しいと思える方法でも、ほかの親には正しいかわからないし、そもそも効果があるというのも思い込みかもしれない。それならば、何が赤ちゃんの寝かしつけに効果のある方法なのか、確からしい事実を科学的に調べてみようと思いました。どの親も1人目のときの育児は大変なので」。
もしかして…運ぶとおとなしくなる?
親が子どもを守り育てたり、子が親を慕ったりといった、親子間の強い感情を研究対象にしている黒田さん。

初めての子どもとなった長男の子育て経験から、赤ちゃんが泣きやむのには「だっこ歩き」が効果的ではないかと漠然と感じていましたが、研究室でのふとしたことをきっかけに、謎に迫る着想を得ました。
「実験で使うマウスのケージを掃除するときに、マウスの赤ちゃんを移し替える必要があります。マウスは跳ね回ってつかまえるのが大変なのですが、背中をつかんで運ぶとおとなしくなるのを見たときに、人間の赤ちゃんでも同じではないかとひらめきました。先行研究を調べてもほとんど誰も研究していないので、それならばと、自分で研究することにしました」。

その後、黒田さんは赤ちゃんが「だっこ歩き」などで運ばれているときにおとなしくなる現象を発見し、9年前に「輸送反応」と名付けて発表しました。
この反応は、ヒト以外でもネコ、ライオンなどほかの哺乳類でも見られるといいます。

野生動物の子どもは外敵が迫っているときに親にくわえられるなどして運ばれることが多くあるため、おとなしくして危険を高めることがないように身につけた本能ではないかと黒田さんは考えています。

「だっこ歩き」に効果があることがわかった黒田さん。

さらに、赤ちゃんが泣きやむには、どういう条件のもとで行えば効果的なのか、状況や時間を変えて調べてみることにしました。
わが子も実験に参加 だっこしたりベビーカーに乗せてみたり…
黒田さんたちのグループが行った実験です。

「輸送反応」を調べる実験と並行して10年余り前にスタートしました。

実験では生後7か月以下の赤ちゃんとその母親21組に
▽「だっこして歩く」、
▽「ベビーカーに乗せて動かす」、
▽「だっこして座る」、
▽「ベッドに寝かせる」という4種類の動作を組み合わせて数十分間行ってもらいます。

30秒単位で動作を記録し、泣いているかどうかなどそのときの赤ちゃんの状態を観察して、それぞれの動作が泣くことや眠ることに与える影響を調べました。