米中間選挙で、民主党のバイデン大統領の意識を支配したのは、2024年大統領選への再出馬をほのめかして急速に存在感を高める共和党のトランプ前大統領の〝復活〟を阻止しなくてはならないという焦燥感だった。

そのための戦略が、現政権への「審判」といわれる中間選挙を、民主主義を守る「選択」へと転換する試みだ。投票前日の演説でバイデン氏は「今が分かれ道だ」と訴えた。

トランプ氏は、落選した20年大統領選が「民主党に盗まれた」と主張し続けている。共和党では、同氏を信奉する候補が大量に予備選を勝ち抜いた。昨年1月のトランプ支持者による米議会襲撃事件の記憶は今も生々しい。

トランプ氏が再登板への野心を隠さない中、与党・民主党や一部の共和党議員には、米国の民主主義が崩れつつあるとの共通の危機感がある。同党反トランプ派の筆頭、チェイニー下院議員(予備選で敗退)は、トランプ派と争う民主党候補を支持さえした。

国民にトランプ氏の復活を許すか否かの「選択」を迫ったバイデン氏はしかし、政策面ではちぐはぐだった。

典型例が、8月に発表した現代の〝徳政令〟ともいえる学生ローン返済の一部免除策だ。学費高騰が続く米国では近年、学生が大学卒業時に抱える債務が平均約2万9千ドル(約420万円)に上る。

ただ、大学進学率は民主党支持層が多い都市部やその近郊に比べ、共和党が優勢な地方の方が低い傾向がある。ローン返済免除は、民主党がトランプ氏から支持を奪い取りたい白人労働者層には恩恵が少なく、むしろ反発の種となった。中西部オハイオ州で9月、トランプ氏の集会に参加した元看護師の白人女性(64)は取材に「私は苦労して教育を受けた。借金は自力で返すべきよ」と語った。

こうした政策は、民主党急進左派の提言を反映したものだ。つまりバイデン氏は、国民全体に「民主主義の危機」を訴えつつ、実際には限られた民主党支持層に向けたメッセージを発信していたといえる。結果、同党は終始苦戦を強いられることになった。

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