コロナ禍の中で感じたのは「先進国と思っていた日本が世界から取り残され、立ち止まっている部分もあるということだった」という。「それでも僕たちはこの場所に住み続け、風土への愛情もある」。そんな思いを新作に込めた。

つくり終えて思うのは「かつての自分は社会的な出来事が横たわる映画をつくる人間ではなかった」との感慨だ。若い男女の切ない恋愛を描いた「秒速5センチメートル」(07年)や「言の葉の庭」(13年)のように、「電車に乗ったりコンビニに入ったり、ささやかな日常での感情の動きを描いてきた」。だが、今は「以前の自分とは違う場所に来たんだなと思う」。

来年2月で50歳。「赤い糸伝説のような恋愛は、僕よりも若い人の方が強度をもって描ける。年をとるということはそういうことだし、僕自身も変わっていく。自分が一番うまく描けるテーマをふさわしい時期につくる。それが僕にとって幸せなこと」と語る