外資に買われた「ニセコのホテル」を見てわかる、「安いニッポン」の意外なメリット

11/11(金) 7:02配信現代ビジネス

■「安いニッポン」で何が困るのか

 困ったことの事例としてよく挙げられるのは、北海道のニセコ地区のホテルやマンションがオーストラリア等の企業や投資家に爆買いされているという話です。京都の中心部にある不動産が海外の投資家に買われているという話もよく耳にします。日本の安い労働力を目当てにした中国企業の日本進出が増えているというのも、困ったこととして報道されています。

 自然豊かなニセコの土地や京都の伝統ある地域に立つ建物が海外の人に買われるのが、日本人として寂しいという気持ちは、もちろん私にもあります。日本の労働者が(優秀だという理由ではなく)たんに安いという理由で中国企業に雇われるのも日本人として残念に思います。これらの事例を報じるメディアのフォーカスはそこにあるように私には感じられます。

 しかし、この話はそこで終わりにしてはいけないと私は思っています。「安いニッポン」が買われるという現象は、日本経済に良い効果も及ぼしているのです。

 ニセコの土地や京都の建物、日本の労働者が外国の人たちに買われるのは安いからです。それと同等のものを海外で買う場合に比べて安いのです。同等品と比べて安ければそちらが買われるというのは、経済の基本的な原理のひとつです。

 そして買われたものは高くなるというのも同じく基本的な原理です。実際、ニセコや京都の不動産はすでに高くなっていますし、ニセコのホテルの建設現場や完成したホテルで働く人たちの賃金も目に見えて上昇しているそうです。

 『世界インフレの謎』第4章で述べたように、価格と賃金がともに凍りついたように動かない、そういう慣習を長く続けると、社会の活力が損なわれるので、脱却の道を探るべきです。そのための方途はいくつかあり得るでしょうが、「安いニッポン」が買われ、それによって価格と賃金が上がることも、そこに向けた一歩ととらえるべきだと私は考えています。
渡辺 努(東京大学大学院経済学研究科教授)

https://news.yahoo.co.jp/articles/682c8b83d11728f7dec3275952843f7a833f12ba