海岸沿いの遊歩道から超近代的なダウンタウンのきらびやかな通りまで、40代のゲイ男性であるファハドがカタールの首都ドーハの街を歩くと、デビッド・ベッカムの笑顔が次々と目に入ってくる。ビルボードから大きなフラッシュスクリーンまで、あらゆるところに、元サッカースターの顔が映し出されているのだ。

元イングランド代表のキャプテンであるベッカムは、20日に開幕したカタールW杯のアンバサダーを務めている。だが、この大会の「顔」となることを選んだ彼の決断を、よく思っていない人は少なくない。

ファハドもそんな一人であり、ベッカムがカタール王家から提示されたとされる1億5000万ポンド(約250億円)の誘惑に勝てず大使の役割を引き受けたことは、軽蔑に値する忌まわしい契約だと指摘する。

「彼の未来は台無しになるでしょうが、少なくともカネは手にしますよね」と話すファハドは、若い頃に化粧をしただけで、カタールの独房に2ヵ月半投獄されたという。

カタールでは、同性間の性行為は7年の禁固刑に処される。シャリア(イスラム法)の解釈では、死刑になることもあり得る。そんなカタールにはLGBTQの団結したコミュニティが存在するというよりも、恐怖に怯えた個人がバラバラに集まっている感じだ。

この夏、ベッカムは「ビジット・カタール」の動画広告に出演し、カタールの人々が自分たちの文化に誇りを持っていることを語った。「現代と伝統が融合して、本当に特別なものを作り出しています」と。



いまカタールW杯の公式インスタグラムやスナップチャットは、そんなベッカムの画像であふれている。

先週ドーハで開催されたユース・フェスティバルへのビデオメッセージでは、ベッカムはこのW杯が「進歩、包摂、寛容へのプラットフォームになるでしょう」とうたった。

しかし、そのようにベッカムが晴れやかな宣伝活動をしている裏で、カタールに暮らすゲイやトランスジェナ―の人々は弾圧されていると、国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチは報告している。W杯開幕直前の10月にも、ドーハの地下刑務所に拘留され、血を吐くまで殴打された人たちがいるという。



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