秘密の異動
大統領になる時、ゼレンスキーはいくつかの私有財産を申告した。その中には、車、不動産、そして共同出資の海外企業3社が含まれていた。そのうちの1つ、元Kvahrtal95の放送作家である妻オレナと共同保有していたフィルムヘリテージ社は、ベリーズ諸島に登記されている。
しかし、パンドラ文書には、ゼレンスキーが明らかにしていないと思われる、さらなる海外資産が記載されている。フィルムヘリテージは、キプロスの持ち株会社であるDavegraの株式を25%保有していた。Davegraは、Maltex Multicapital Corpという、タックスヘイブンである英領ヴァージン諸島(BVI)に登記されている、これまで知られていなかった企業を所有している。ゼレンスキー、シェフィール兄弟、ヤコブレフはそれぞれMaltexの株式を25%ずつ保有している。
ウクライナ選挙の第1回投票の2週間前の2019年3月13日、ゼレンスキーはMaltexの4分の1の株式をセルヒイ・シェフイールに渡したと文書に記されている。シェフィールに対価を渡したかは不明である。バカノフ氏は、この秘密裏に行われた譲渡の証人となり、書類にサインした。
およそ6週間後、ゼレンスキーが大勝利を収めた後、Kvartal 95グループの代理人である弁護士が別の文書に署名した。その文書には、マルテックスがゼレンスキーの経営するフィルムヘリテージの株式を保有していないにもかかわらず、配当金を支払い続けることが明記されていた。マルテックスの顧客プロフィールによると、同社の主な収益はウクライナ、ロシア、ベラルーシでの活動から得られている。
パンドラの書類には、配当の有無やその規模は記されていない。また、何回支払われたかも明らかにされていない。ゼレンスキーの妻オレナは現在、フィルムヘリテージの受益所有者として宣言されており、2019年以降の支払いはすべて彼女に流れたことになる。
2019年4月24日付けの重要文書には、マルテックスがテレビ映画を制作・配給する企業の株式を保有していると書かれている。マルテックスを設立した理由の1つは「事業利益の税効率の良い蓄積」であり、もう1つは「法的保護」であったと記されている。ボリス・シェフィール氏によると、バカノフ氏は、「当局や盗賊」から会社を守るために、こうしたオフショアの「金融スキーム」を構築することが仕事だったというのである。
「正直に言えば、私はあなたに答える準備ができていない。私が(マルテックスの)オーナーである可能性はある」と、ボリス・シェフィール氏はパンドラ文書の調査の1つであるOCCRP(Organised Crime and Corruption Reporting Project)に語った。ボリス・シェフィールは、自分とオフショア利権を切り離そうとしているが、これは時間がかかり困難なプロセスであると述べている。セルヒイ・シェフィール、バカノフ、ヤコブレフは、彼らの弁護士と同様にコメントを拒否した。
マルテックスの暴露は、海外に富を送る人々を取り締まると公言していたゼレンスキーにとって、恥ずべきことである。先月、ウクライナ議会は反オリガルヒ法案を可決した。この投票は、正体不明の暗殺者がボリス・シェフィールを殺そうとした翌日に行われた。キエフ郊外で、銃を持った男が彼の車に発砲したのだ。彼は無傷だったが、運転手が負傷した。この暗殺未遂は、法案に反対する動機があったのかもしれない。
ゼレンスキーは最近、NATOに寄せた意見書の中で、大統領としての最終目標は「伝統的な寡頭制秩序」を破壊し、「より公平なシステム」に置き換えることだと述べている。しかしジャーナリストたちは、ゼレンスキーは国家改革に失敗し、前任者たちと同じ陰険なやり方を受け入れてきたと言う。EUの監査官は先月、ウクライナでは「大汚職と国家の恣意性」が依然として蔓延していると警告した。
政界入りして以来、ゼレンスキー氏は、ゼレンスキー氏の番組を上映しているテレビ局の億万長者、イゴール・コロモイスキー氏の影響下にあるという主張に悩まされてきた。選挙戦の間、ゼレンスキーの反対派は、2012年から2016年の間に、コロモイスキーの団体から、フィルムヘリテージを含むゼレンスキーとその周辺に属する海外企業に4100万ドルが流入していると主張た。