《玄侑宗久の色眼鏡》「すする」 日本人の文化

芥川賞作家で福島県三春町・福聚寺住職の玄侑宗久さんに伺う「玄侑宗久の色眼鏡」
麺類が大好きという人も多いと思う。食べるときに麺を啜るが、玄侑さんは、この「啜る」という行為を日本人の文化と捉えている。

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「熱々のうどんやラーメンが美味しい季節になってきましたけども、落語じゃないですけども麺類というのは啜る音がですね、味の一部というか、とても大事だと思うんですが。(私が)修行した道場というところは、食べる時だけじゃなくて、ほとんどの場所で一切音を立てちゃいけないんですね。

食事の時は当然音を立てちゃいけないんで、たくあんも口の中にくわえてトイレの裏で噛むという、そういう暮らしだったんですけども、うどんのときだけは別なんですね。
厳しい座禅修行の後にはですね、『うどん典待』という、うどんを御馳走して頂けるんですけど、20人もの雲水がですね、ものすごい音を立てますから滝のようでしたね。それでストレス発散にもなってたんだと思います。

この啜るっていう行為なんですけども、欧米ではそうしちゃいけないというふうにされていて、身体能力としても啜ることがあんまりできないみたいですね。
英語とかを調べてみてもですね、啜るにあたる単語がないんですね。
たとえば、飲み物を一口飲む、これはsip、take a sipといいますけども、あるいは飴をしゃぶる、おっぱいをしゃぶるというような場合のsuckatというのもありますけども、これは両方とも啜るわけじゃないんですね。
ですから、啜るという習慣が子どもの頃からないために、能力もないし、言葉もないんですね。

たまにですね、日本人でラーメンとか、うどんとかを啜らないで、冷めるのを待っている人がいるんですけどね。非常にナンセンスだと思うんですね。やっぱり日本人の文化だと思うんですよ。啜って麺類を食べる。
うどんとかラーメンとかは、いまや外国でも人気のある食品になっていますからね。食べ方とセットでですね、ぜひ堂々と売り出してほしいと思います。

まあ、小難しいことを言っているよりもですね、麺類を啜って頂くとですね、味と温度と空気がいっしょに入ってくるんですね。これがなんとも堪えられないものだと思います。
『啜る』という字を見ますと、口偏に又又又又と書いてありまして、あんまり上品とは言えないんですけども、やっぱり上品よりも味ですよね。盛大に啜って美味しく召し上がって頂きたいと思います。

コロナのせいもあって、飛沫が気になるという方があるかもしれませんけども、あの場合、出ている飛沫は汁ですよね。だと思うんですけどね。
どうぞ、お楽しみください」

https://news.yahoo.co.jp/articles/d6fd97c9305537f57f03135eff4197dd6dadea70