「危ない」論拠は10年以上前の事故
およそ1週間の間、本番に備えた試運転は毎日繰り返された(画像:高木聡)

読んでいて歯が浮くような気持ちになる――というのは、何かとつけて報じられる「中国の高速鉄道は危ない」という安直なメディアの論調と、
それに追従する「ネトウヨ(ネット右翼)」たちによって書き込まれる大量のコメントである。
今こそ「コペルニクス的転回」を
橋の上からテガルアール駅を望む。シーサスポイントを使わない不思議な配線をしている(画像:高木聡)

その論調の根拠は、東南沿海に位置する浙江省温州市で2011年7月に発生した高速鉄道の追突、脱線事故に至るわけだが、10年以上も前に発生した事故をさも昨日起きたように語っている。もちろん、事故の処理方法や当局の隠ぺい体質など、問題があったのは事実だ。しかし、肝心なのは

「事故の教訓がその後に生かされたかどうか」
である。

事故は起きる。ましてや、短期間に急速な拡大を続ける中国の高速鉄道だ。特に2011年の事故は、落雷という予期せぬトラブルが引き金になっている。ただ、その後、これと同様の事故は発生していない。第一、中国の高速鉄道をさかのぼれば、

「日本の新幹線」
なのだ。

その後、中国の高速鉄道は“雨後のたけのこ”の如く伸び続け、世界最長のネットワークを築き上げている。
中国が世界一の鉄道大国であることは、いやが応でも認めざるを得ない。
もし、中国の高速鉄道がそんなに危険ならば、少なくとも外国人は利用しないだろう。
しかし、実際には在留邦人はもちろん、出張者に観光客、それに外交官など、政府関係者だって利用している。ここに「危ない理論」を持ち込むのは、無理筋というものだ



何でも実地にこだわり、閉鎖的空間で身内の自己満足の如く執り行われる日本式セレモニーとは正反対であるし、そういう

「昭和脳」
があるからこそ、オンライン試運転を針小棒大に攻撃し、同調するやからが出てくるのだろう。
残念ながら、SNS活用という面で、日本はインドネシアや中国に圧倒的に引き離されている。仮にそれが、プロパガンダ的に使われているとしても、だ。
過去の栄光にしがみつき、「日本の技術は最高だ」と声高に叫び、あわや東南アジアの盟主ですらあると勘違いしてる昭和的な自称「愛国者」たちが、皮肉にも国力をそいでいる。

 今回の事例で言えば、

・安全な新幹線
・危険な高速鉄道

という、二項対立的な思考停止である。安かろう悪かろうのメイド・イン・チャイナの時代など、とうに終わっているし、そもそも中国産品抜きに日本の生活など成り立たないにも関わらずである。
そして、それに勝つべく新たな戦略が全く生まれてこない。壊れたテープレコーダーの如く、安心・安全・高品質と繰り返すだけ。結果、中国に負けたのである。中国側は政府による債務保証を求めず、
それから何より高速鉄道の技術移転をインドネシア側に認めたのだ。日本には絶対にできない提案をしてきた。同額か、より高くとも中国案の方が魅力的に映るのも無理はない。
そもそも、国家プロジェクトにも組み込まれず、時期尚早としてインドネシア側が全く乗り気でないなかで、日本はかたくなに新幹線を押し売りしていた。

客は“穴子ちらし”を食べたいのに“うな重”を売りつけていたも同然だ。そこに突如、“ジャワうなぎ”を扱う業者Xが現れて、そちらが売れてしまった。
そして、困ったことに思考停止したうなぎ屋の頑固オヤジは、うな重がどうして売れなかったのか、いまだに気づいていない。その間に、業者Xはどんどん売り上げを拡大していく。
もはやコペルニクス的転回なしに、このうなぎ屋の生き残る術はない。安直な中国、インドネシア批判はそういった危険性をはらんでいるのである。
https://news.yahoo.co.jp/articles/3e15a73e323e8bc1cff692948851a04206faee2c?page=1