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IQ高い人がフェイクニュースに騙される真の理由
「自分は客観的だ」と思ったとたんにもう罠の中

「知的な人はだまされない」の真偽

SNSに誰かが投稿したとてつもなく愚かな意見を目にしたとき、私たちは思わず「なんてバカなんだ!」とつぶやいてしまう。疑似科学にまみれた記事を読んでは、「今の時代には、もう客観的事実や科学的根拠は求められていないのか……?」とため息をつく。

ジャーナリストも、大衆の「無知のカルト」や「反知性主義」を厳しく批判している。こうした状況は、「言論の問題点は、知識や知性の不足にある」と考える人が多いことを示唆している。

「人々がもっと知識を増やして賢くなれば、間違いに気づけるのではないか?」というわけだ。それは、本当だろうか?
イェール大学のダン・カハンは、アメリカ人の政治的見解と気候変動に関する考え方を調査した。予想どおり、この2つには高い相関関係があった。

「近年の地球温暖化の主な原因が、化石燃料の燃焼などの人間活動であることを示す確かな証拠がある」といった考えに同意する割合は、リベラルな民主党支持者のほうが、保守的な共和党支持者よりも高かった。結果自体は、特に意外なものではない。

この研究のポイントは、対象者の「科学的知性」を測定していたことにある。

測定に用いられた質問の内容は「機械5台を5分間稼働させると、製品を5個製造できる。機械100台で製品を100個製造する場合に必要な所要時間はどれくらいか」といった思考力を問うものもあれば、科学的な基礎知識を問う「レーザーは音波を集中させることで機能している。本当か嘘か?」「地球の大気の大部分を占める気体は、水素、窒素、二酸化炭素、酸素のうちどれか?」といったものもあった。

IQが高い人は数学や投資先の検討が得意
科学的知性が高い人たちは、科学的な問題について似たような意見を持つ――。そう考えるのが自然だが、この調査が明らかにしたのはその反対だった。

対象者のうち科学的知性が最低レベルだった層では、リベラル派か保守派かによる意見の違いは見られず、どちらも約33%が「地球温暖化の原因は人為的なものである」と信じていた。ところが、科学的知性が高まるにつれ、リベラル派と保守派の間で意見が分かれていった。

科学的知性が最高レベルの層になると、「地球温暖化の原因が人為的だ」と信じる人の割合はリベラル派がほぼ100%に達したのに対し、保守派では20%にまで低下した。

つまり、知識が増えれば増えるほど、人々の意見は分かれていった。科学的知性が高くなるほど、政治的信条の違いに応じて意見が二極化されていったのである。

この研究結果には、重大な意味がある。知性が高く、あるテーマに詳しいことが、「自分の考えは正しい」という誤った確信につながってしまうと示唆されるからだ。
IQが高く、学歴が高い人は、数学の問題を解いたり、投資先を検討したりといった、イデオロギー的に中立な領域で思考をするときには有利になるかもしれない。ただし、IQや学歴が高いだけでは、イデオロギー的に対立する問題にバイアスを持つことは防げない。
人は自分が客観的だと感じている〞とき、「私は客観的に思考している」と考える。論理的に、まっとうに考えていると確信する。偏見は持っていないし、自分は感情的でも、不公平でもないと。

誰でも、自分の主張には説得力があると感じているものだが、「自分は理性的だ」と思っていることが裏目に出る場合もある。

たとえば、人は「自分は客観的だ」と強く思うほど、自らの直感や意見が現実を正確に表していると信じるようになり、それを疑うことに抵抗を覚える。

「私は客観的にものごとをとらえることができる人間だ。だから、政府の規制緩和に関する自分の意見は正しく、これに反対する非論理的な人たちの意見は違っているに違いない」と考えてしまう。
本当に賢い人が実践している3つのこと
チャールズ・ダーウィンが1859年に『種の起源』を発表したときのこと。彼は、自然淘汰による進化論を主張するこの本の内容が、世間に大きな物議を醸すことになるだろうと予想していた。

案の定、『種の起源』は炎のような厳しい批判を浴びた。予想していたことではあったが、批判する者たちは、ダーウィンをコケにし、非現実的なほど厳しい基準で理論を立証することを求め、根拠の薄い反論をしてきた。

ダーウィンが例外的なのは、批判の中にごく一部、的を射たものがあるのを認めていたことだ。そのうちの1人は、『種の起源』に対する否定的な文章を文芸誌『アテネウム』に掲載した科学者のフランソワ・ジュル・ピクテ・ドゥ・ラ・リヴだった。