カタールW杯後に取り残される、人影のない近未来都市・ルサイル

ワールドカップ開幕まで残り1ヶ月を切ったころ、奇妙なことに、開催地であるカタールの「ルサイル・シティ」は閑散としていた。

 大通りに人影はなく、建築現場には稼働しないままの昇降機やクレーンがいたる所に見受けられた。首都ドーハの北方20キロメートルに位置し、洗練されたイメージのこの地区は、ワールドカップの観戦客や開催地カタール国内に住む数十万人を受け入れるために建設された。

 サッカー界で最大規模の大会が行われているさなか、閑散とした近未来的な都市をめぐる問題が浮き彫りになっている。大会が終わり、100万人を超えるサッカーファンがこのペルシャ湾岸の小国から去った後、このイベントのためにカタール政府が建設したインフラは一体どのように利用されるのだろう。

 市内にある金色のボウル型スタジアムでサッカーの試合が開催されない日に、サンフランシスコ出身の経営者エリアス・ガルシア氏(50)とその友人は、ドーハからルサイル・シティを訪れた。

 ガルシア氏は、背後にそびえる巨大な三日月型の超高層ビルを見上げ、「どんな様子か知りたくてやって来ましたが、ここにはとくに何もありません」と話す。カタールの国章でもある湾曲した刀剣をモチーフに設計されたものだ。

通りの向かい側にある敷地は、砂漠の風景が描かれた背丈の低い塀で囲われている。同氏は「建設中のように見えるものばかりです。何もない区画に小さな壁を立てることで、何かをはじめているように見せかけているのでしょう」と言う。

 ドーハから北に向かって運転していると、空に映えるきらびやかなルサイル・シティとマリーナに目を奪われる。木箱を交互に積み重ねたようなパステルカラーのタワーが砂漠にそびえ立ち、ジグザグ形状のビルやガラスドーム、新古典主義様式を取り入れた集合住宅が広い通りに立ち並んでいる。そこで暮らす住民がいるのかどうか明確ではない。高級ホテルやマンション、商用オフィスを用途として宣伝されているものが大半である。多くの建物からはクレーンが吊り下げられている。

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