自宅に帰ってテレビを見ると、画面には空港でのシーンが映っていた。水をかけられ、混乱の中でなす術(すべ)もなく、
その場を去っていく自分の姿がそこにはあった。

「テレビから流れてくる情報を見て、聞いて、初めて大会中にどんな報道がなされていたのかを知った。
自分が結果を出せなかったことや、ガムを噛んでいたことなどが批判されて水をかけられたんだなっていうのが、
自分の中ですべてつながって理解できた。

正直、(一連の報道についても)今までの俺なら『ふざけんな』って思って、いろいろ言い返していただろうね。
でも、反応しなかった。ここで何かを言うと、また叩かれるんだろうなってわかっていたので、おとなしくしていた。
それは、自分の置かれていた状況を理解していたから。

チームに戻って、監督やコーチは『水をかけたヤツは許さない』って言ってくれたけど、
チームメイトからは何も言われなかったし、連絡をしてくる選手もほとんどいなかった。
まあ、それは仕方がないよ。きっと、連絡しづらかったんだと思うし」

城を取り巻く異様な空気を察してか、連絡をしてくる友人もほとんどいなかった。
城自身、外に出て、人と会うのが少し怖くなっていた。

そうした状況の中、唯一電話をかけてきてくれた人がいた。カズ(三浦知良)だった。そして、カズにはフランスであったことを素直に話した。

「カズさん、俺、現地でメシも食えなくて、吐いたりしたんですよ。プレッシャーが大きくて、結果を出せませんでした」

そう言うと、電話口でカズが大声で言った。

「おまえ、そんなのに負けていたら"エース"なんかつとまんねぇぞ。(空港で)水をかけられたらしいけど、水でよかったよ。
俺なんか、卵をぶつけられたし、いろんなものを投げられた。それは、期待の裏返しだ。気にすんな」
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