ピーター・ティールは、生後すぐに米国に移住したものの、彼の両親はドイツ人で、彼もドイツで生まれています。そんな出自から、多くの米国人経営者とは違って、「ヨーロッパ的な知」に普段から関心をもっているのかもしれません。

私は別にピーター・ティールの熱烈な支持者ではありません。そもそも、そこまで彼のことをよく知っていません。ただ、米国の成功者にありがちな尊大な話し方ではなく、どことなく不安を抱えながら、相手の話によく耳を傾けた上で自分の話をする、そんな彼の振る舞いには、とても共感しました。

イーロン・マスクやジェフ・ベゾスにはまったく関心がありませんが、ピーター・ティールには人間的興味を覚えます。

トッドは、2016年の米大統領選を論じた第14章で、「米国社会について真実を言っていたのはトランプのほうだった」として、「トランプ支持者の合理性」を指摘している。その「真実」とは、行き過ぎた「自由貿易」によって深刻な産業空洞化が生じ、白人中年層の死亡率が上昇する──通常の先進国では考えられない──ほど、米国社会は病んでいる、という「現実」である。

トッドによれば、これに対して、「反トランプ」を掲げて、この「現実」から目を背けた(=「自由貿易」を信奉し続けた)のは、「既成メディア」「シリコンバレー」「アカデミア」のエリートたちだ。

トッドによれば、「反トランプのエリート」は、抽象的に「人類」を愛していても、同じ社会のなかで苦しんでいる、本来、「同胞」であるはずの「民衆」に対しては、同情を寄せない。それどころか、彼らを見下すのである。彼らは「左翼」を自称するが、「体制順応派(右派)」なのだ。

こうした文脈で、トッドは、シリコンバレーの傑出した起業家でありながら、トランプを支持したピーター・ティールについて、「統計の数値がいかに決定的でも、それで人間が自由を失うわけではない」と評している。そんなピーター・ティールに対して、「同性愛者がトランプを支持するなどあり得ない、あってはならない」という態度を示したのが、「シリコンバレーの体制派」だ。

https://courrier.jp/cj/309070/