東大、虚数角速度を用いてクォーク閉じ込め相に到達できることを発表
掲載日
2022/12/12 20:54

https://news.mynavi.jp/techplus/article/20221212-2536102/

東京大学は12月9日、理論的に虚数の角速度を考えて虚回転する高温物質が、クォーク閉じ込めの性質を持つことを示したと発表した。

同成果は、東大大学院 理学系研究科の陳実大学院生、同・嶋田侑祐大学院生、同・福嶋健二教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

自然界には電磁気力、弱い力、強い力、重力の4つがある。そのうち強い力は、原子核を構成するクォークとグルーオンの相互作用のことで、量子色力学(QCD)という場の量子論に従う。もしQCDを解くことができれば、もともとほとんど質量のないクォークとグルーオンから構成される中性子や陽子などの粒子が、実験で観測されるような質量を獲得するメカニズムを、理論的に解明することができると考えられている。

ところが強い力は、ほかの3つの力とは違って結合定数が大きいために摂動計算を実行できず、理論計算から質量の起源やクォーク・グルーオンの閉じ込めを導くことは、現代物理学の未解決の難問となっている。

一方、QCDは大きな相互作用エネルギーに対して結合定数が小さくなる性質(漸近的自由)を持っており、高温極限や高密度極限では質量が消失したり閉じ込めが失われたりする相転移があることがわかっている。このような相転移に関しては相対論的原子核衝突実験によって相図が調べられており、QCD相図の様相が少しずつ理解されてきたという。

最近では、原子核が衝突中心軸から互いにずれて衝突するときには、1秒間に1022(100垓)回転という大きな角速度を持つ高温物質が生成されることが、観測粒子のスピン偏極測定によって確認されており、QCD相図に対する回転の効果が大きな関心を集めているという。

ところが、角速度を取り入れると「符号問題」という深刻な困難によって摂動計算に頼らない理論解析が複雑になってしまい、角速度の効果について複数のグループから矛盾する計算結果が報告されるなど、理解が不十分な状況となっていたとする。