理由は主に3つあります。第1に、サウナと1人焼肉がもたらす快楽は、持続しないからです。瞬間的には脳内でドーパミンが分泌され、快楽を得ることができますが、翌日には跡形もなく消失し、それで終わりです。よって成長にもつながりにくく、人生の向上にも寄与しづらいと考えられます。
自分より豪華なサウナに行っている人がいたら?

第2に、お金で買える行為はしばしば他者との比較につながるからです。1人で焼肉を食べながら、サウナと焼肉の写真をSNSに投稿したとしましょう。しかし次の瞬間、自分とは別のアカウントの投稿に気づくかもしれません。

そこには、もっと豪華なサウナ、あるいはもっと美味しそうな焼肉の写真が投稿され、自分よりはるかに多くの「いいね!」をもらっているとしたら、どうでしょう。その瞬間から、さっきまでの高揚感は急激に下り坂になっていきます。あとに残るのは、劣等感です。

第3に、1人で完結する趣味には、“出会い”の入り込む余地がありません。出会いは体験であり、記憶に繋がります。そして言うまでもなく、記憶は持続するものです。しかしこのように述べると、必ず次のような反論があります。「出会いや体験には、悪いものだってあるのでは?」と。それはその通りです。

ですが後述するように、悪い体験にも、いや、悪い体験だからこそ幸福に近づくことすらあるのです。もちろん程度問題ではありますが、出会いや体験の根本がポジティブなものであることは、知っておいてほしいと思います。

いったんまとめましょう。ハピネスに欠けているものは「持続する幸福感」「他者と比較しないマインド」「出会いや思い出」の3つでした。そこでいよいよ、「ウェルビーイング」の出番というわけです。

さて、ここから本丸である「ウェルビーイング」のお話となります。「ウェル」は「充実」を指す言葉であり、「ビーイング」は「状態」を指す言葉です。つまるところ「充実した状態」が幸福であるという、ごく素朴な話に聞こえるでしょう。

しかし、長きにわたってGDPが伸び悩み続け、生涯未婚率も上昇し続けている日本において、このウェルビーイングこそが、今後ますます重要になっていくのです。事実、2021年からは内閣府の政策運営にもウェルビーイングの観点が取り入れられるなど、国をあげて「幸福」に向き合う姿勢があらわれ始めています。

日本だけではありません。SDGs(持続可能な開発目標)が世界的な取り組みとして受け入れられたことを考えても、もはや「お金やモノ」だけを幸せとして追求する姿勢は、なるべくすみやかに転換していくべきです。

それでは、わたしたちが個人レベルでウェルビーイングを手に入れるには、どうしたらいいのでしょうか。
ウェルビーイングに重要なのは「利他心」

冒頭で、ウェルビーイングをこう定義しました。「利他心によって体感できるもの、数値化しにくいもの」。この「利他心」がとても重要なのです。

とはいっても、難しいことではありません。例えば、この記事を読み終わった直後から実行できる行動の1つとして、「挨拶」や「お礼」が挙げられます。挨拶をされて嫌な気持ちになる人はいません。職場や学校で挨拶やお礼をおろそかにしていたと感じるのなら、ぜひチャレンジしてみてください。

恥ずかしければ、バスの運転手さんやコンビニの店員さんなど、見知らぬ人相手から始めて構いません。そのほか、ちょっとした募金をする、お年寄りに席をゆずる、犬や猫と触れ合う、といった行為も、ウェルビーイングにつながります。

これだけでは物足りない方もいるでしょうから、もう少し“中級者向け”の行動も紹介しましょう。

実は、お金を使ってもウェルビーイングに近づくことは可能です。重要なのは、何にお金を使うか。一言でいえば、「モノでなく体験」にお金を使うことを心がけるべきです。もっともわかりやすいのは、旅行でしょう。多くの調査や研究によって、旅行はモノよりもはるかに持続する幸福をもたらすことがわかっています。

とはいえ、毎月のように旅行に行ける人など、そう多くありません。そこでより身近な行動としておすすめしたいのが、「ネットショッピングの代わりに個人商店で買い物をしてみること」です。個人商店は、しばしば不便です。買い物客の傾向から最適化されたラインナップも用意されていません。むしろ興味のないもの、見たことのないもののほうが多いケースすらあるでしょう。

だからこそ、思いがけない出会いがあり得るのです。できれば、店主さんと会話を楽しみながら買い物ができたらベターです。そこで購入したものには、必ず思い出がセットで付くことになります。たとえ、その買い物が失敗であったとしてもいいのです。

https://toyokeizai.net/articles/-/639831