「相手を脅して抑止するのは幻想だ」 遠藤乾・東大大学院教授が語る岸田政権の軍備拡張策への疑念

<安保政策大転換 私はこう考える>
 日本は隣接する中国、ロシア、北朝鮮が核保有国で非友好的な関係にある上に、独裁国家で現状に不満を持っている点も共通し、厳しい安保環境に直面している。今後10年ほどは日本も軍備拡張をしなければならない局面だ。だが、日本政府が検討する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有は不要だと思う。相手に攻撃を思いとどまらせる抑止として機能するか、怪しいからだ。
 抑止はもともと核兵器とともに練り上げられた概念で、基本的に耐え難い苦痛を与える能力を持ち脅し、相手がそれを脅威と認識しないと成り立たない。相手基地の滑走路に撃っても1日で修復されるような被害しか与えられない通常弾頭のミサイルを仮に1000発持っても、中国のような核保有国が脅しと感じるだろうか。移動式ミサイルを正確に破壊するのも難しい。抑止ではなく制空権の確保の時間稼ぎになる程度だろう。

 逆効果を生む恐れもある。いくら日本が反撃専用で先制攻撃をしないと言っても、相手は信用しない。攻撃力を持てば、相手はそれを上回る攻撃力を持つエスカレーション(事態の深刻化)の階段を上り、際限のない軍拡を誘発する。相手を脅して抑止するというのは幻想だ。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/219933