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人事異動、システム化の落とし穴とその回避策

人事異動は、日本企業で幅広く採用されている人材活用・育成の手法です。
「現場部門ではモチベーションの低かったAさんを、企画部門に異動させたところ、
誰よりも積極的に手をあげるようになった」
「営業成績の振るわなかった1課のBさんを、2課に配置転換したところ、
全社で一番の好成績をあげるようになった」
「他部門との調整能力に課題のあった商品部のCさんを、管理部門に異動させたところ、
全体感をもって仕事ができるようになった」
「人事異動が従業員の成長を促した」という体験談は事欠くことがありません。実際に異動によって、自分の成長を実感することができたという読者の方も少なくないのではないでしょうか。そういった意味では、人事異動は日本型人事の最大の長所ともいえます。
しかし、異動や辞令は「天命」として下りてくるわけではなく、「人事」です。一枚の辞令文の裏には、人事部の多大な努力と苦労が隠れています。人事部で異動業務に携わる担当者は、従業員の希望やキャリアを最大限に勘案した上で異動案を作成します。または、異動後の新しい上司・部下との相性を想像してみたり、あるいは現場部門との異動交渉に翻弄されたり。そしてようやく異動を確定させ、辞令文を発行することができるのです。人事異動の時期になると、企業規模によっては数千に及ぶ異動案を作成し、そこから一つひとつの異動案の整合性を確認する作業を行って…といった想像を絶する激務に見舞われる人事部もあると伺います。
このような人事部の労力を手助けする術はないのでしょうか。異動業務のシステム化は、一つの手段として一考の余地があります。しかし、異動案の検討は、その複雑性・戦略性の高さから、一概にシステム化しにくい業務であることも事実です。
そこで今回は、様々ある人事部の異動業務のうち、どのような業務をシステム化すべきなのかを考えてみたいと思います。
異動案の作成業務は、どうしてこれほどまでに煩雑なのでしょうか?この背景の正しい理解なくして、異動業務のシステム化を議論することはできません。主に以下の3つの要因が、異動案の作成業務を複雑にしています。
@考慮すべき情報が多岐にわたる
初めて異動業務に携わる人がまず驚愕するのは、異動を考えるにあたって考慮すべき情報の種類の多さです。本人の人事情報はもちろん、現場部門の上司の意見や異動の結果起きうるトラブルなど、異動にまつわる様々な事項を勘案した上で最適な異動案を考え抜くという職人芸が、異動担当者には求められます。
本人の情報
過去の異動履歴や業務経験歴
本人の異動希望・キャリアプラン
直近数か年の評価やコメント
他者の意見
上司の意見
人事部の所感
全社の経営戦略
他者との関係
異動先の同僚・上司との相性(過去のトラブル・縁戚関係など)
他の異動との整合性
「どうやって異動を決めていますか」という問いに対して、自社の異動決定の基準を明快に答えられる企業は多くありません。
大抵の回答は「過去の異動・本人希望・上司意見などを参考にしながら、異動先を仮置きしていくことを繰り返していき、その仮置きにおおむね皆が納得すれば異動が決まる」というもの。極端に言ってしまえば、「なんとなくの職人芸で異動を決めています」という回答をもらうケースが多いように感じます。
A他部門との調整事項が非常に多く、かつ困難を極める
企業によっては、人事部と経営層による「御前会議」で大枠の異動が決まってしまい、現場の本人・上司は下された辞令に従うしかないという企業もあるかもしれません。
ただ多くの企業は、人事部が作成した異動案に対して、現場部門が異議を申し立てる機会が設けています。そうした結果、異動に関して、人事部は多くの調整業務が強いられることになるのです。象徴的な事例が「上司による優秀な部下の抱え込み」です。人事部は、できれば他部門に異動させて多様な経験を積ませることで幹部候補として育成していきたいと思っている。その反面、現場の上司は部下が抜けることで業務が回らなくなることを危惧して異動に反対する、という状況はどの企業でも起きるものです。
このように、異動に際して多様な調整業務を強いられて、時には理不尽な要求もされ、異動時期の人事部はまさに精神的にも身体的にも疲労困ぱいになることが多々あります。
B異動確定後の事務処理が膨大
異動案の確定は、多くの事務処理が始まる合図です。
例えば、人事異動の確定結果をシステムに登録する作業です。辞令文を発行したり、本人・上司向けの内示や新しい人員構成表といった、各種書類を作成したりする必要もあるでしょう。転居を伴う