絶対に丸くならないだろう!と思われる代表格のキャラといえば、板垣恵介氏による『グラップラー刃牙』(秋田書店)に登場する範馬勇次郎だろう。「地上最強の生物」の異名を持ち、すべての格闘家の目標でもある彼だが、本人からすれば脅威といえるような存在はいない。

「強くなりたくば喰らえ!!!」がモットーで、その言葉通りに生きているとも言える。戦場に単身で乗り込み軍隊を壊滅させたり、日本の首相官邸にふらりと現れては多数の機動隊を無効化。アメリカ大統領は勇次郎の強さに慄き、国家と勇次郎個人の間で友好条約を結ぶほどだ。

 そんな勇次郎、登場当初はかなり残虐で暴力的な性格だった。自分に挑戦する格闘家や気に入らない相手には、一生の後遺症を負ってしまうレベルで撃破、もしくは殺している。さらに刃牙の母親・朱沢江珠の元夫を部下ともども皆殺しにし、江珠までも自らの手で殺めたほどだ。

 凶暴性と残虐性を持つ勇次郎は自らの欲望のままに生きており、少しでも怒らせたら死は免れない……そんなイメージの彼が意外な一面を見せた場面があった。それが中国大擂台賽編での日米連合軍結成のときだ。

 これまでの勇次郎は、気に入らない者がいれば自らの手ですべてをぶち壊すのがモットーで、他人と共闘することなど一切なかった。しかしそれが急に、中国武術の連合軍を前に刃牙やほかの格闘家と協力したから驚きである。しかも刃牙が郭海皇の息子である郭春成に完全勝利をすると、すれ違い際にハイタッチまでしているのだ。

 誰もが恐れ、近づくことすらはばかられるような存在であったのに、まさかここまで他人や息子と普通に接する姿に意外性を感じた読者は多いだろう。

 そこからは少しずつ砕けた様子となる勇次郎。刃牙との最終戦では動けなくなった刃牙に「いいだろ、もう」と身を引こうとしていた。5年前の戦いでは同じ状況でも躊躇することなく殺そうとしていたのに……信じられない変わりようである。

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