今春以降、全日本体操個人総合選手権やNHK杯、全日本種目別選手権、そして全日本シニア選手権も行われた。
 シーズンが進む中で、ふと問われたことがある。
「あのユニフォームはどうなったのですか?」
 あのユニフォームとは、「ユニタード」のことだ。昨夏に行われた東京五輪で、注目を集めたことを記憶している人も少なくないのではないか。体操女子団体に出場したドイツが着用した、足首まで覆うタイプのものだ。
 ドイツは東京五輪に先駆けて行われた欧州選手権でも着用していたが、オリンピックという大舞台で広く知られることになった。
 注目と話題を集めた理由は、従来の体操女子はレオタード、というイメージを覆すスタイルであったこととともに、近年のスポーツ界が向き合ってきた問題が結びついたことにあった。それを端的に示していたのはドイツ体操連盟による声明にあった、「スポーツを性の対象として扱うことに対する抗議である」の文言である。

 言葉にあるように、近年、体操に限らず、さまざまな競技で、盗撮や性的な目的での画像の拡散による被害が大きく取り上げられるようになっていた。その中で現役、引退を問わず選手たちも実体験を踏まえるなどして発言する機会が増えると、あらためて深刻な状況と、問題が放置されてきたことが浮き彫りになった。

 そうした流れを受ける形で、オリンピックの開催を前に、日本オリンピック委員会などが共同声明を出し、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会も会場への入場者に対する禁止行為の中に「アスリート等への性的ハラスメント目的との疑念を生じさせる写真、映像を記録、送信もしくは作成すること」を加えた。
ユニタードが普及していない「3つの理由」
 1つには、レオタードを小さい頃からずっと使用していて着慣れていること。だからある意味、自然体であり、さらには試合におけるパフォーマンスの面を考えたうえで、かえにくいということがある。
機能的な意味での動きやすさという点では、どちらを着用しても大きな差はないかもしれない。ユニタードを着用することで動きにくくなる、というような開発はされていないはずだ。
ただ、単純な動きやすさばかりがポイントになってくるわけではない。例えば脚をつかむ動作なども技の種類によって含まれてくるが、そのときの感覚が異なってくる。ユニタードだと滑ってつかみにくいのではないか、そんな危惧を抱く面もあるという。

 また体操に限った話ではなく、採点競技では、着用するものに脚を長く見せたいという意図が込められていることが多い。
「ユニタードだと、脚の長さがそのままはっきりと出てしまうので」
そう語る選手もいた。だから、ユニタードを使用することは考えにくいという。

 そもそも、ルール内でどのような選択をするのかは選手自身の意志による。ユニタードは選択肢の1つとして提示されたが、あくまでも選択肢の1つにほかならない。
性的画像に象徴されるように、メディアも含め、性的な視点から切り取るのは切り取る側の問題であって、選手側の問題ではない。以前も触れたことがあるが、ときに選手がSNSなどで寄せられるという、「撮られるのが嫌だったら、撮られる対象として狙われないような恰好をすればいい」といった言葉は的外れでしかない。
 現在のところは、ユニタードが広まった、選手の人気を集めているということはなく、その理由は先にあげたような、競技面での意味や愛着など、さまざまな点にあるだろう。
https://number.bunshun.jp/articles/-/855979
https://i.imgur.com/GoDTWTe.jpg