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苦戦ルノアールが「郊外のパン屋」出店に託す反攻
都心のカフェでは「紙たばこ客」の取り戻し狙う
首都圏で「喫茶室ルノアール」など複数のカフェブランドを運営する銀座ルノアール。同社が9月中旬、初となるベーカリーブランド「BAKERY HINATA」を開業した。
1号店は、東京都心から離れた埼玉県さいたま市の大宮大成町の国道17号沿いにオープン。約454坪の広大な敷地には27台もの駐車スペースをそろえる。メインターゲットとなる子育て世帯に向け、テラス席や子ども向けの遊び場なども用意した。
繁華街やオフィス街の駅近で、中高年のビジネスパーソンが新聞を片手にコーヒーを飲んだり、商談したりする――。そんなイメージの強い喫茶室ルノアールとは、正反対ともいえるような業態だ。
商品とレジ周りに特徴
BAKERY HINATAでは、100円以下〜400円台と幅広い価格帯の計112種類のパンを取りそろえ、客単価は1000円〜1500円を想定する。
巣ごもり需要などを背景に、街中にパン屋が乱立するようになった昨今だが、仕込みが簡単な冷凍生地を使用しているケースが少なくない。一方、BAKERY HINATAは店内で粉から生地を仕込み、成形や焼き上げまでの全工程を行う「スクラッチ製法」を採用し、おいしさへの差別化を図った。
ルノアールとしてはまったくの未経験分野への参入だが、そこはベーカリー専門のコンサルティング会社・ダイユーからのサポートで補強を図った。同社はパン屋に特化した開業支援を行っており、これまで1200店ものパン屋をプロデュースしてきた実績をもつ。
レジ周りにも一工夫ある。それが、画像認識や機械学習の技術を使ったシステムを開発するブレイン社が手がけた「ベーカリースキャン」だ。
トレイ上のパンをカメラで一度にスキャンし、AI(人工知能)が自動判別してパンの種類と値段を瞬時に特定。「物販の命である回転率の向上に加え、人件費の圧縮にも資するだろう」
1号店の想定する月商は2000万円。12月には神奈川県座間市相武台への2号店の出店も予定する。厨房設備に一定の面積が必要になるため、今後も1号店、2号店と同様、郊外やロードサイドでの出店を想定する。
BAKERY HINATAについては「5年をかけて20店体制を目指す」(渋谷氏)。2021年3月期末のルノアールの店舗数が102店(前期末から15店減少)ということを踏まえれば野心的な目標といえ、新規事業への本気度がうかがえる。
ルノアールが郊外立地でテイクアウト需要にも強いBAKERY HINATAの出店を急ぐのには、祖業であるカフェ事業の苦戦がある。
コメダにつけられた大差
店内利用が主流のカフェ業界は、コロナ禍では総じて苦境に立たされているものの、その程度には濃淡がある。中でも奮戦したのが、「珈琲所コメダ珈琲店」などを展開するコメダホールディングスだ。
フランチャイズ(FC)が全店の約95%を占める卸売りビジネスであり、人件費や賃料といった固定費はFC店が持つため本部負担が軽い。店舗網は発祥地である中京エリアだけでなく、東日本や西日本など広範囲に分布。また、都心店では駅から少し離れた場所、郊外でも生活道路沿いと、コロナ影響が軽微なエリアへの出店が主だったことも追い風となった。
一方、ルノアールはその真逆だ。昨年退店した熊本県のFC店をのぞき、全店が一都三県に集中し、直営店での運営。さらに、首都圏の中でも繁華街やビジネス街の駅近エリアへの集中出店が基本方針だった。
コロナ前はこの戦略がうまくはまり安定した収益を生んでいたが、感染拡大で一気に暗転。都心部の人出減少により大苦戦を強いられた。
戦略の違いによる明暗は2020年度の決算に顕著に表れた。コメダが売上高288億円と、減収でこそあったが前期比7.6%減にとどめたのに対し、ルノアールは41億円と同48.1%減。当期純利益も、コメダは36億円(前期比32.9%減)と黒字を堅守したが、ルノアールは23億円の赤字(前期は0.5億円の黒字)だった。
直近の2021年8月の月次データをみても、コメダがコロナ前の2019年8月比で8.4%減と健闘する一方、ルノアールは同55.2%減と厳しい。
都心一極集中で苦戦を強いられたルノアールにとって、リスクヘッジのために新たな立地へ店舗網を広げることは喫緊の課題だ。
「当面、山手線の内側などの都心には店舗を出しづらい。『BAKERY HINATA』でロードサイドを掘り起こし、郊外や住宅街は、フードメニューが充実している『Cafeルノアール』ブランドで店舗網を広げる。中期的には関西進出やFC展開などもにらむ」(岡崎裕成管理本部長)
店内への設置を強化中の個室型ビジネスブース(写真:銀座ルノアール)
一方、都心店に対しても手をこまねいているわけではない。主力の喫茶室ルノアールで進めている取り組みが「ビジネスブース」と呼ぶ個室型のテレワーク用ブースの設置だ。
ルノアールでは従来、カフェ併設型の