政治指導者の暗殺事件それ自体は、先進民主主義国においても存在しないことはない。米国のジョン・F・ケネディ大統領はソ連に亡命歴のある元海兵隊員に殺害され、その弟のロバート・ケネディ上院議員はイスラエル支援を理由に殺された。明白な政治イデオロギーによる暗殺では、イスラエルのイツハク・ラビン首相が自国民の和平反対派に命を奪われ、イタリアではアルド・モーロ元首相が極左テロ集団「赤い旅団」に誘拐され殺された。日本でも今世紀に入ってから他に政治家が二人、暴力団員や右翼団体の人間によって殺害されている。それでも、安定したデモクラシーにおいて暗殺は稀だというのは事実であり、こうした事件の裏にはいずれも特異な性格や政治・社会的背景に基づく凝り固まった思考の犯人の存在があった。