安定した低価格から30年以上にわたって「物価の優等生」とされてきたモヤシ。

安くて、調理しやすく、どんな料理にも合い重宝するが、生産コストの高騰を受け、生産者は「安さを求めていては、もう続けていけない」と、消費者に価格変更への理解を求めている。(平沢裕子)

1袋(200グラム)28円。東京都墨田区内のスーパーで売られていたモヤシの価格だ。このスーパーから徒歩10分以内の別の店では29円で売られていた。

「地域にもよるが、30円以下の価格では店の利益は出ていないでしょう。それでもその価格で提供するのは、他の店よりも安くすることでお客さんを呼びたいためです」

こう話すのは、モヤシ生産やカット野菜製造などを手掛ける「旭物産」(水戸市)の林正二社長だ。

他の食品も含め、店頭価格は、スーパーなどの小売店が決める。生産者が卸値を上げても、その分を上乗せするかは、店次第だ。モヤシはスーパーで最も買い上げ点数が多い商品で、競合ひしめく地域では安売り合戦の目玉商品になる。そのため、卸値が上がっても、店頭価格は上げない店は少なくないという。

原料費は3倍に

旭物産は昨年、スーパーなど取引先への卸値を1袋あたり2円程度値上げした。しかし、店頭では値上げ分を上乗せせず、価格を据え置く店がほとんどだったという。林社長は「本当は1袋5円は上げてもらわないと厳しい。しかしスーパーが値段を変えずに安く売り続けるので、こちらも5円の値上げは言いにくかった」と打ち明ける。

実際、モヤシの価格動向を見ると特異な実情が見えてくる。

総務省の家計調査によると、モヤシの平均価格は30年前の平成5年に1袋約40円だったが、近年は同約30円と2割以上安くなった。一方、財務省の貿易統計によると、原料種子となる中国産緑豆の価格は3倍以上になっている。

機械化などでコスト削減を進めてきた同社だが、昨年は原料費や光熱費の高騰でモヤシ事業が赤字に。その赤字を他でカバーしながら生産を続けている。

一方、安値競争に疲れて廃業するモヤシ生産者も多く、この30年で8割減の105軒ほどに。林社長が理事長を務める「もやし生産者協会」(東京都足立区)では昨年、2軒が廃業。同協会非加盟の生産者も5軒ほどが廃業したという。

■経営努力は限界

生産コストに価格が見合わないと、生産者の生活も成り立たない。林社長は「(店頭価格は)40円ぐらいが適正ではないか」という。しかし、卸値を上げようとすれば、小売店側は1円でも安いモヤシを求めて別の生産者に切り替える可能性があり、値上げ交渉は簡単ではない。

他の野菜には、生産方法にこだわったり生産者の顔を見せたりして価値を高め、高く売る物もある。しかし、モヤシは味や食感に差を出しづらく、ブランド化は難しい。また海外で新たな市場開拓をする野菜もあるが、モヤシは傷みが早く、輸出に不向きだ。

林社長は「われわれ生産者は、なくなっては困る食材を作っている自負がある。作り続けたいが、原料や人件費、光熱費が上がる中、生産者の経営努力は限界まできている。今後も安定してモヤシの生産を続けるために、実態を理解してほしい」と話している。

モヤシ「物価の優等生」も限界 コスト上昇に理解を
https://news.livedoor.com/lite/article_detail/23575893/