「干し柿」は粉をふいた“タマ”みたいで「だいッきらいだ」と一蹴した作家とは? 立川談四楼が正月に笑った一冊を紹介(レビュー)(Book Bang)
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ズバリ『金玉医者』という落語がある。医者が患者のお嬢さんと二人きりになり、バカなことを言いながら金玉をゆるい褌の間からチラリと見せ、思わず笑ったお嬢さんがそれをきっかけに回復するという噺である。
落語には「金玉の根元涼しき女房の屁」との古川柳も出てくる。どういう状況かは想像していただくより他ないが、落語でも登場人物は「ところで金玉だけどね」などとは話題にしない。世間でも然りである。
そんな金玉に著者は果敢に切り込んだ。しかもおカタい出版社においてだ。世界各国ではそれを何と呼ぶのかに始まり、西郷隆盛や勝小吉・海舟親子等の逸話を考察し、金玉文学を調べ、ついには豚や羊のそれを食すに至るのだ。
山田風太郎のエピソードには大笑いした。客の土産の話だ。
〈このお土産を、玄関でまず出た家内にわたして、それから応接間に通る人がある。そのあと私が応接間にはいる。家内はお茶など持って来たとき、「ただいまはけっこうなものをいただきまして」と報告する。「いや、それはどうもありがとう」と私も礼をいう。さて、そこはかとない雑談の中、客がふと「ところでホシガキなんかお好きですか」などきく。「だいッきらいだ」と私は言下に一蹴する。「あんなコナをふいたキンタマみたいなものを食うやつの気が知れない」「そうですか。……」客が帰ったあと、家内が改めて報告する。「あの、いいホシガキをいただいたの。……」「? !」〉
このあと作家は爆笑するのだが、私も爆笑した。折しも信州の客からのホシガキを食していたのだ。なるほどコナをふいたキンタマかと眺めた。そしたらまた笑いがこみ上げた。
私は正月に本書を読んだ。著者は1年かけて本書を書き上げた。あとがきに、実に多くの人々のアドバイスや協力を得たとある。「特に名は記さないし、記されることを望む人も少なかろう」にまた笑った。
[レビュアー]立川談四楼(落語家)
新潮社 週刊新潮 2023年1月26日号 掲載