<建設業界では「4週4休以下」が36.3%、実労働時間は全産業に比べて21.2%も長い。「雇用環境が劣悪」というイメージで若手が集まらず、人口減少後の日本では老朽化する道路や橋を直す人がいなくなる?>
国土交通省によれば、建物や建築物の生産高である建設投資は1992年度の約84兆円がピークだ。2021年度は58兆4000億円で、ピーク時より30.5%減る見通しだ。
人口減少が進むと需要が現行水準を維持することは考えづらいが、一方で、建設業の場合には政府投資の拡大が見込まれる。社会インフラの多くが高度経済成長期以降に整備されており、老朽化が目立つため、更新が喫緊の課題となっているからだ。
例えば、全国に約72万カ所ある道路橋梁の場合、建設後50年を経過する施設の割合は、2019年3月時点の27%から、2029年3月には52%へと跳ね上がる。トンネルや港湾岸壁、水門といった河川管理施設なども大規模に手を入れなければならない時期を迎えている。
建設業への人口減少の影響は、他業種とは異なり就業者の減少という形で色濃く表れるということである。
国交省の推計によれば建設業就業者はコロナ禍前の2018年度時点で既に前年度の331万人より約2万人少なくなっている。さらに、2024年度からは改正労働基準法の適用に向けて時間外労働の上限規制も考慮しなければならなくなる。建築投資が2017年度と同水準と仮定した場合、例えば製造業を下回る労働時間(5年で5%減少)とするためには新規に16万人増やす必要があるというのだ。推計は外国人労働者について3万人ほど少なくなると試算しており、合計すれば2023年度までに約21万人を確保しなければならない。
これを新規学卒者だけで賄うことは難しい。総務省の人口推計によれば2021年10月1日現在の20歳男性人口は59万9000人だ。女性を含めても116万9000人である。各業種による〝若者争奪戦〟は激化の一途だというのに、建設業だけで20歳男性人口の3分の1を確保するというのは、さすがに無理がある。
これに対して国交省は対案を示している。建設現場の生産性を年間1%向上させることで16万人分の人手を確保したのと同じ効果が得られると試算し、新規学卒者を1万5000人採用し、外国人労働者を約3万5000人受け入れれば対応できるというのである。
だが、国交省の皮算用どおりにいくとは限らない。国交省の別の資料によれば、建設業における2021年の年間実労働時間は全産業の1632時間と比べて346時間、率にすると21.2%も長い。休日状況も建設業全体で見ると36.3%が「4週4休以下」となっており、「4週8休」の週休2日となっている人は19.5%にすぎない。技能労働者(建設工事の直接的な作業を行う人)の賃金も低い。2019年で比較すると、全産業の男性労働者が560万9700円なのに対し、建設業の男性技能労働者は462万3900円だ。
建設業の就業者は2011年以降、建設投資が拡大するなかでもほぼ横ばいをたどっており、2021年は482万人でピーク時と比べて29.6%少ない。技術者(施工管理を行う人)は1997年の41万人から2021年は37万人、技能労働者は455万人から309万人へとそれぞれ減った。受注高が減った時代に他業種に流出した人たちが戻っていないのだ。「雇用環境が劣悪」との印象が定着し、新規に就業する若者が増えないのである。
就業しても辞めてしまう人も少なくない。とりわけ不足しているのが、若い施工管理技士だ。建設現場には不可欠な存在であり、このままベテランが引退していけば建物を建てることが難しくなる。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の推計によれば、鉱業および建設業の就業者数は2017年から2040年にかけて約4割減少する。厚労省の「労働経済動向調査」でも、人手不足を示す指標の「DI」(「不足」と回答した事業所の割合から、「過剰」と回答した事業所の割合を差し引いた値)は、建設業では2012年から人手不足を示す正の値となり、全産業の平均を上回っている。2020年は全産業の平均よりも22ポイントも高い46ポイントに達した。人手不足が極めて深刻であることを示す数字だ。
このため、建設業就業者も高齢化が進んでいる。2021年は55歳以上が35.5%を占め、全体の3分の1となっている。一方で、29歳以下は12.0%にとどまっている(左上の図参照)。全体の25.7%を占める60歳以上の技能労働者の大半が今後10年で引退すると、熟練した技術も消えていく。現在の人手不足は、同時に将来的な懸念を内在している。
建設業も頼みの綱は外国人労働者だが、製造業と同じくどこまで当て込んでよいかは読み切れない。「WITHコロナ」政策を取る国が大勢となり、各国の建設現場で外国人労働者の受け入れニーズが高まっているためだ。
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